197 始まりと終わり
最後に腕時計を使ってから何年も経過していて、私は中学三年生になっていた。
‥‥いや、中学は先日卒業式を迎えたので、あと少しすれば高校生になる。
そんな年月が経っても私の兄に対しての行動は変わっていない。
見れば見るほどお兄様とは違う兄に私は失望と共に、苛立ちを覚えていた。
言葉で強く当たるのは日常的で、暴力を振るうのも年々増えていっていた。
だからなのか、兄はどんどんと暗くなり私に反論はもちろん、何も言うことはなく、内気な性格になっていた。
その変化も私にとっては苛立ちの原因の一つだった。
でも、反論されていないことである意味大きな喧嘩には発展していないので、怒鳴るような喧嘩は最近はない。
なので、一定の距離のようなものはあるかもしれない。
兄はお兄様の時のような目に力がなく、見る影もない。
‥‥‥‥でも、最近の兄は何だか以前のような目をするようになった。
それが私には無性に気に食わなかった。
◆◆◆◆◆◇
「さっさとしなさいよ、ゴミが」
のろのろと料理を作っているその姿に私は苛立ちを隠せないでいた。
それに最近になって見るようになった気に食わないその目が私を更にイライラとさせた。
「‥‥‥‥そんなに言うならお前が作ればいいだろ」
「は?」
「そんなに言うならお前が作って、勝手に食えばいいだろ! 俺はお前の家政婦じゃないんだぞ!」
こいつ、今私に言ってる?
‥‥‥‥偽物の分際で‥‥。
私のお兄様は怒ったりなんてしなかったし、家事だって自分から好きでやっていた。
それに比べてこの偽物は‥‥ふざけるなよ‥‥。
私は完全に怒りでなにも考えることが出来なくなっていた。
初めから喧嘩をする関係ならきっとこんな気持ちにはならなかっただろうが、元々なにも言わなかった人が急に反抗するようになったということが癪に触った。
私は完全に自分を見失っていた。
◆◆◆◆◆◆
その怒りは夜中になっても全く冷めることはなく、逆に更に怒りが増していた。
イライラとしていた時ですら、私は自分一人で気持ちを沈める訳ではなく兄に当たり散らして発散していたが、今はそんなことをしてもこと怒りを抑えることが出来そうにない。
私はふとベッドから体を起こした。
無意識に私は階段を下り、一階のキッチンの方へと向かっていた。
そして、キッチンでとあるものを手にした後、私は階段を上がり始める。
自分の部屋の扉を通り過ぎ、私はその隣の部屋の扉の前に立った。
扉を開けると、静かにベッドに横になっている兄の姿が見える。
私は兄のベッドの側まで歩いていく‥‥。
どうせもうすぐ死ぬんだから、いつ死んだって同じ‥‥。
私が何もしなくてもどうせいなくなるんだから、最後は私のために死んで‥‥。
私は手に持っていた包丁を兄に突き刺した。
刺した瞬間、私は全てから開放されたような‥‥そんな清々しい気分になった。
あぁ、もうこの兄のために生きなくてもいいんだ‥‥。
兄の部屋の壁掛け鏡には楽しそうに笑う私の姿が映っていた。
今回の話は一つの結末です。
あったかもしれない、そんな世界で───はまだ続きますので、これからも全力で頑張ります!




