196 別人
心が壊れた状態で私はまた戻る。
一つだけ言えることはこの時点で私は私ではなくなった。
自分でももう訳がわからなくなり、前回よりも更に前に戻ることになった。
意味のないことだというのはわかってはいるが‥‥もう、全ての人生をやり直すつもりで戻ったからなのかもしれない。
そして、更に負担をかけたことにより、今回の頭痛は一番酷く、私はもう一度戻れば死ぬような気がした。
だから、私にもう余裕なんてものはない。
ただ自分の信じたように行動し、あの優しいお兄様がずっと生き続けられるようにするしか道はないと思う。
失敗は許されない。 まずはあの優しかったお兄様になっていただかないと‥‥。
‥‥偽物なんていらない。
◆◆◆◆◆◇
「あんなやつ私のお兄様じゃない!!」
勉強も運動も完璧に出来ていた兄がどうしてあんなに出来ないの‥‥!
あんな偽物に私の腕時計の一回が使われたと思うだけで無性に腹立たしく思うようになっていた。
一つ前ならまだこの兄の良いところも見えていたかもしれないが、もう私は悪いところしか見ることが出来なくなってしまっていた。
ここがお兄様と違う。 だから別人だ。 そんなあり得ないようなことを思うようになっていた。
私はそのイライラを周りに当たることで発散するようになっていた。
一つ前ならまだ暴言だけで終えるできた感情も、今はもうそれだけでは自分の心のモヤモヤとした感情を吐き出すことが出来なくなっていた。
だから私は兄に対して暴力を振るうようになった。
初めは手が出るようなことだけだったが、何年かすると近場にあるような物を兄に向かって投げたりし始めた。
段々と酷くなってきたからだろうか、兄は家にいる時間が極端に短くなっていった。
きっと、友達の家に泊めてもらっているのだろう‥‥。
私は全てを捨ててきたのに、兄にはそれがあるというのが私には無性に苛立った。
だから帰って来た時は何時もよりも酷く兄に当たった。
料理などの家事は兄にやらせた。
こんなのの為に私がやる必要はないと思って作らなかった。
元々は兄に好かれようと思って始めたことだ。
別に今はそんなこと思わない。
その時点で、もうこの兄を助けたいなんて気持ちは全くといっていいほど存在していなかった。
ただ、救う方法を試して次に活かしたい。
もし次も無事に戻れたとして、完璧なお兄様だった時の為の練習のような気持ちでいた。
兄を救うために使っていた腕時計は、いつの間にか自分が望む世界にするために使っていた。
もう私は自分のことしか考えないような、そんな人間になっていた。




