195 矛盾のような気持ち
全てが真っ暗だ。
目の前も、心も中も‥‥‥‥。
結局、何処を探しても兄は見付からず、いつの間にか夜になっていた。
家に戻っても、電気はついておらず音もなく静かな室内だ‥‥。
なにも言われなくてもわかる。
きっと兄はもうこの世にはいないことが‥‥。
事故なのか通り魔に刺されたのかはもはやどうでもいい。
兄は遊びのために家から勝手に出ていったのだ。
そう思うと悲しみや辛さよりも怒りのようなものを私は感じていた。
「ふざけるな‥‥」
私は家から出ないでとはっきり言ったはずなのだ。
それなのにあの人はそれを無視して勝手に出ていった。
以前も桜を見に行かないでと言ったときはバスに乗るなとは言っていなかった訳だから裏切られた訳じゃなかった。
でも今回はそうじゃない。
兄は私に嘘をついた。
そんなことをされたら私としてはただ兄が裏切って勝手に死んだような感じにしか思えなかった。
「‥‥そうだ。 あの人はきっと私の兄じゃなかったんだ‥‥」
私のことを裏切ったりする人が私の兄なんかじゃない。
私のお兄様は優しくて怒ったりしなくて頼りになって‥‥そして嘘なんてつかない。
この時点で、私は既におかしくなっていた。
きっと側に誰かいたのなら、その変化に驚いていたと思う。
私は兄を助けたいと望んでいるはずなのに、兄が死んでも別に悲しくもない‥‥私の心の中はそんな矛盾のようなことが起きていた。
◆◆◆◆◆◇
『ねぇ、小乃羽。 やっぱり無理よ。 マスターが出来なかったことが私達だけで出来るわけがない』
「いーや! 出来るよ! 出来るって信じないと出来るものも出来ないよ」
小乃羽はまだまだやる気でいるようだが、私は正直諦めてしまっていた。
『それ気持ちの問題でしょ。 気持ちでなんとか出来るものじゃないわよ。 やっぱりこれを改良するよりも早く戻って、もう戻らないようにする方が大事よ』
「じゃあ、アイちゃんは見つけるために頑張ってよ」
『だから、その為には戻らないと‥‥』
「いや、正直戻ってみて思ったことがあるんだけど、推測してこの辺りを重点的に戻るみたいにしないと流石にお姉ちゃんを見つけるのは厳しいよ」
世界が分岐する以上、ピンポイントで戻らなければ意味がない。
変化がない限りは分岐はしないので、秒単位で合わせる必要はないが、それでもかなり厳しい。
『確かにそれはそうね。 でも、腕時計を使うしか方法がない以上、それを続けるしかないのよ』
「私はこの改良を続けるからアイちゃんは戻る時間の推測をしててよ」
無理な気しかしないが、小乃羽が現状頑張っているので私もやるべきところまではやってみるべきだろう。
『‥‥わかったわよ』




