194 嘘つき
「今日は外に出ないで! 危ないから!」
「はぁ? いきなり話しかけてきたと思ったらなんだよ、意味がわからん」
「わからなくてもいいから、今日だけは私のいうこと聞いてよ!」
桜が咲いて、きっと今日兄が外に出ていけば同じようなことが起こってしまう。
私にはもう力ずくでも家にいさせるしか方法が思い付かなかった。
正直、話すこと自体珍しいのに、お願いして受け入れてくれるなんてことが出来るとは到底思えないが、もう私にはやるしかないのだ。
自分でも何となくもう私の精神か何かが限界を迎えそうなのだと自分自身わかってしまっているのだ。
今回成功しないと不味いってことが‥‥。
「でも、今日約束が‥‥」
「それがダメなの!」
別に約束がなければそんなこと言うつもりはないのだ。
桜とかそんなことを言ってなかったとしても、この時期に誰かと遊びにいく約束をしているというだけが問題なのだ。
「どうしても、行くっていうなら私‥‥‥‥」
「っ! わ、わかったよ」
兄はとても嫌そうだったが、一応は受け入れてくれた。
正直断ったとしても、もう家に閉じ込めてでも行かせないようにしようと思っていたが、受け入れてくれたのならその心配はないの‥‥かな?
◆◆◆◆◆◇
結果、その日は私もずっと家にいたこともあり、兄が外に出ることはなかった。
しかし、あと何日かは警戒しないといけない。
日にちが変わって事故が起こったことも体験済みの私は楽観的になれなかった。
そして、その次の日も私は兄に同じようなことを言って、兄に家にいてもらうようにお願いした。
安心できるようになるまで、私は兄に外に出ないように‥‥。
しかし、私も兄から目を離すことがないわけがなく、私も睡眠はとるし、兄も自分の部屋にいるわけだし‥‥。
そして、私は兄が寝ていたことを確認した後、自分もベットに横になった。
こんな生活が何日続こうとも私は兄を死なせな‥‥い‥‥。
朝、目覚めた私は何故だかわからないが、違和感なようなモヤモヤとした気分になり、すぐにベットから起きて、兄の様子を確認するために自分の部屋を出た。
結果からいえば、兄は家にはいなかった。
私が寝ていた間に遊びに出かけたのだろう‥‥。
「わかったって言ってたのに‥‥嘘つき‥‥」
兄が私に嘘をついたというのが、どうしても私には耐えられなかった。
兄は私に嘘だけはつかないと思っていたから‥‥。
自分の中に残っていた兄に対する信頼や尊敬がどんどんと崩れていくような気がした。




