187 まわりには誰も‥‥
走り去っていくバスを私は眺めることしかできなかった。
もうここまで来たら何となくわかってしまった。
私が何を言おうと、どう行動を変えようとも結果はわからないんだってことを‥‥。
たぶんお兄様は約束を守ってくれていたんだろうけど、きっと他の二人が遠出してみようと言ったんじゃないだろうか。
つまり、お兄様自身が約束を守ろうと守らまいと関係はないんだ、きっと‥‥。
今から何かしらの手段で追ったとしても、きっとそれは全てが終わったあとで、私の行動は無駄に終わるだろう。
事故か通り魔かわからないけど、きっと起こった後に私に電話がくるんだろうな‥‥‥‥いや、まだ少しの可能性はあるかもしれないけど。
その少しの可能性にかけて、私は蕾ちゃんの家に行くことなど出来るわけもなく、公園のベンチに腰を下ろして待つことにした。
そして、数十分が経過した後、磨北さんからの電話がかかってきて一度目と同じ電話がかかってきたことで、お兄様が亡くなったことが確定してしまった。
‥‥こんな呆気なく終わってしまった。
アイちゃんに最後だって言われていたのに、こんなに何も改善することもなく‥‥。
私は一体何を頑張ってきたんだろう。
時間を戻って、周りに迷惑をかけて、結果はお兄様のお付き合いを邪魔しただけだ。
一度だってお兄様が亡くならない世界にすることができなかった。
これで最後‥‥こんな酷い終わり方で‥‥。
‥‥いや‥‥まだ終わってない‥‥。
そもそも腕時計は今私が持っているんだし使い方だってわかってるんだから、アイちゃん達が付いてこなくても戻れるじゃないか。
そうだ。 何度だって戻ったらいい。
自分がどうなろうとも関係無い。 お兄様を救うことを諦めるなんて私には出来ないんだから‥‥。
腕時計を使った。
私の周りにはもう誰もいなかった。
◆◆◆◆◆◇
マスターの開発部屋で作業をしていた私に、とある情報が入ってきた。
『‥‥あの子‥‥なんてこと‥‥。 小乃羽!! すぐに腕時計を使う準備をして!』
側にいた小乃羽はいきなりのことで何を言っているのかわからないといった様子だった。
「へ? もう使わないって言ったから片付けたのに‥‥どうしたの?」
『夕闇さんが一人で使ったのよ! 一瞬、反応があった』
「えぇ!? どうしてそんな‥‥」
『諦めきれなくて‥‥でも私たちに言ったら止められると思ったんでしょ。 そりゃ言ってたら止めただろうけど‥‥。 だから追うわよ私達も!』
「わかった、準備する。 ‥‥でも、アイちゃん、お姉ちゃんが戻った時間わかるの?」
『わからないから焦ってるんじゃない! こんなことなら腕時計を置いていってもらうんだった!』
こうなってしまったら、手当たり次第に探すしかない。
まだ大丈夫だと思っていたのに、精神が不安定になるとここまで人間は変わるのかと私は改めて実感した。




