178 怖くなった
お兄様達は付き合ってないんだから、デートで桜を見に行くというもの自体がなくなると思っていたのに‥‥。
‥‥もしかしたら私が知らない間に付き合っていたという可能性も‥‥ううん、それなら森田先輩がいるのはおかしい。
いや、そもそもこれは私が知っている出来事が起こるのだろうか。
お兄様と磨北さんがお付き合いもしておらず、今までいなかった森田先輩もいて‥‥ただ桜ということが共通しているだけで、別の結末になるんじゃないかという期待もある。
‥‥でも、どうしても前向きに考えようとしても、あの最悪の出来事が頭にちらつく。
「どうした、奈留?」
「え、あ‥‥何でもないですよ」
お兄様に声をかけられて、私がずっと黙っていたことに気付く。
絶対に何でもないという顔はしていなかったと思うが、お兄様はその部分は深くは聞かないでくれた。
「それで、どうする?」
「えっと‥‥その花見の場所は何処なんですか?」
場所が違うなら、まだ少し心に余裕が出来るんだけど‥‥。
「広葉が薦めてくれた場所でな。 隠れた名所らしくて、バスに乗っていくらしいが────」
お兄様が話してくれた場所は前回と全く同じ場所だった。
森田先輩が薦めたんだから、同じ場所になるのは仕方がないのかもしれないけど‥‥。
「良いところらしいぞ。 奈留はどうする?」
色々と確認するためには一緒に付いていった方がいいはずだ。
それに、お兄様の方から誘っていただいているのだし、私も行きます、と言おうとした時、頭にあることがよぎる。
私が付いていったことにより、亡くなるはずがなかった磨北さんが亡くなってしまったあの光景が‥‥。
私は怖くなった。
自分が付いていくことにより変わらないならともかく、悪い状況になってしまうということに。
「私は‥‥‥‥お留守番しておきます。 三人で楽しんできてください」
本当なら付いていった方がいいはずだ。
現状が大きく違うので、近くでどういう変化があったかを確認することで、失敗しても次に活かせるわけだし‥‥。
でも、私は前回のことがちらついて勇気が出ずに逃げてしまった。
磨北さんが亡くなるというのがそれほど私にとって衝撃の出来事だったのだろう。
結果私は、まだ、亡くなると決まった訳じゃない、起こらない可能性だって充分にある‥‥そう自分に言い訳をして逃げる自分を肯定した。
「そうか。 まぁ、まだ時間があるから行きたくなったら言ってくれ」
「はい、ありがとうございます、お兄様」
その日から私は未来の出来事が変化していてほしいと、切に願うようになった。




