164 その腕時計は‥‥
私の目の前には、ずっと意識不明でベッドに寝ていたはずの蕾ちゃんが、元気そうに立っていた。
「今日は学校が休みだから奈留ちゃんには会えないと思ってたでござるが‥‥でも、いつもあまり家に積極的に来てくれない奈留ちゃんが自分から来てくれるとは、私は嬉しいでござるよ!」
「え、あ、うん‥‥」
頭が混乱してきた。
そういえば、小乃羽ちゃんに戻る日にちを任せたから、セットしたと同時に起動したのでどこに戻るか聞いてなかった‥‥。
もしかしなくても、まだ蕾ちゃんが意識不明になる前の時間に戻ってきたんじゃ‥‥。
うん、それなら私が自分の部屋で目覚めたのも納得できる。
この頃は蕾ちゃんの家に行くことなんて、休日に誘われたら遊びに行くことぐらいしかなかったからね。
でも、蕾ちゃんと話すのは本当に久しぶりで私は感極まって、泣きそうになった。
やっぱり、私にとってはそれだけ大切な存在なんだね‥‥。
「奈留ちゃん、どうしたんでござるか? 何だかいつもと雰囲気が違うでござるし‥‥」
「そ、そうかな?」
蕾ちゃんと接していた時と、かなり間が空いてしまっているからか、以前はどのようにして蕾ちゃんと接していたのか一瞬わからなくなるほどだった。
「そういえば、アイ達も少し‥‥いや、気のせいかな? 何か悩んでることがあるならいつでも相談に乗るでござるよ。 まぁ、法に触れなければ‥‥いや、少しくらいなら‥‥」
「いやいや、駄目だからね! あと私、そんな相談しないからね!」
何だか、蕾ちゃんとのやり取りってこんな感じだったなぁと、期間でみればそこまで蕾ちゃんが倒れてからの期間は長くないはずだが、少し懐かしく思えた。
でも、蕾ちゃんは私が悩んでいてもすぐにわかるんだね。
‥‥そうだ! 今の現状を蕾ちゃんに相談すれば、何かいい提案をしてくれるんじゃ!
‥‥いや、でもこの時の蕾ちゃんはきっと意識不明になる少し前の蕾ちゃんだ。 そんな蕾ちゃんを巻き込んでしまっていいのか?
きっと、話したら蕾ちゃんは無茶をしてでも助けてくれるに決まってる。
やっぱり、話さない方が‥‥‥‥。
「もう、相談しないんでござるか? 今なら無料でござ────え‥‥奈留‥‥ちゃん? ‥‥何でその腕時計してるの?」
私は自分の腕についている、発明品の腕時計をすっかりと忘れていた。
まずい! これ蕾ちゃんが大切にしてたってアイちゃんも言ってたし、それを私がつけていたら‥‥。
「奈留ちゃん。 もしかして‥‥ ”物忘レンくん“ を使ったわけじゃない‥‥よね?」
‥‥物忘レンくん?




