6 後悔
私は部活を終え、家に帰る。
特に何事もなく家に着き玄関を開けると、そこには知らない靴があった。
兄のものでもない、男物の靴だ。
するとリビングの方から、叫び声が聞こえてくる。
「ぶっ殺してやる!」
兄の声ではない男の声!
「やめろーー!!」
その兄の声が聞こえた途端、私は最悪のことが頭を過り、急いで靴を脱ぎ捨て、勢いよくリビングのドアを開けた。
「お兄ちゃん!!」
なんとそこには‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥広葉がいた。
◆◇◆◇◆◇
「いや~この格闘ゲームが面白いから、陸にも勧めにきたんだよ~」
「こいつ俺が初めてなのをいいことに、手加減なしでやってくるとは卑怯な! 奈留もあり得ねぇと思うだろ?」
「いやもう色々とあり得ないよ!」
「しかし勝ちたい! 広葉、もう一度だ!」
まさかこんなことだとは‥‥‥‥ん?
「このゲーム、 やったことある‥‥」
「え? 奈留ちゃんこのゲームやったことあるの? 一応新しい方なんだけどな」
「え!? いや勘違いしただけですよアハハ」
広葉にはとっさに嘘をついてしまったが、私はこのゲームをやったことがある。
皆さんお馴染みの前世ですね。
まぁ自分の家でやることはなかったが‥‥‥‥やってたらゲーム壊されちゃうしね。
ほとんど毎日、遊びという名の避難をしていた、広葉の家。
まぁ広葉を家に呼べるわけないしね。
このゲームはその時、二人でずっとやってたものだ。
ハマりすぎて、勉強に支障が出て、広葉の成績がどんどん落ちていったのを覚えている。
私? 私は家では勉強と家事ぐらいしか出来なかったから、特に問題はなかったよ。
「いくぞ広葉!」
「あぁ来い! 陸!」
「兄さん、森田さん。 私もやってみていい?」
二人を見ていたら、私もやってみたくなった。
「お、奈留ちゃんもこのゲームの面白さをわかってくれるのかい!」
「いいぞ。 ほい、コントローラー」
兄がコントローラーを渡してくれる。
兄さん任せて。 未来の兄さんである私が敵をとってあげる!
◆◇◆◇◆◇
「負けました‥‥」
未来の兄さん、瞬殺される!
ま、負けた~!
あれー! こんな弱かったっけ私!
「おい、 奈留もこのゲームやったことないんだぞ! 何本気だしてんだよ!」
「いや想像以上に強くて、無意識だったんだよ!」
前世では結構勝ててたんだけど‥‥。
は! これが兄と妹の違いというやつなのか(違います)
「でも、楽しかった♪」
懐かしくて、あの頃を思い出したよ。
満足した~!
「奈留ちゃん、もう一回しよ、もう一回!」
「いや奈留、次は俺としよう」
「そろそろ晩御飯作るから、そんなに出来ないよ。 またしようね!」
私はそう言って、キッチンに向かう。
「はぁ~いい子だよなぁ。 俺も妹欲しかったな~。 よし、お義兄さん」
「‥‥広葉、少し話をしよう。 大丈夫、すぐ終わる」
「め、目が怖いよ! ちょ‥陸やめっ! 奈留ちゃん!! 助けてーーーー!!!」
◆◇◆◇◆◇
前世は大丈夫だったのに、今世はこわいものを挙げるなら、それは包丁だろう。
前世で私が殺された凶器。
それは想像以上に私の心に強く突き刺さっていた。
見ることであの頃のことを思いだし、震え上がり、立つことも出来なくなってしまう。
じゃあどうやって料理をするのか‥‥。
初めは刃物事態ダメだったのだが、今では少しマシになり、果物ナイフのような小さいものは使えるようになった。
今ではそれが当たり前になっているが、初めて今世で包丁を見て震える私を見た兄さんは────
『料理は俺がするから、奈留はしなくて良い。 奈留は料理が出来なくても俺の自慢の妹だよ』────といってくれた。
でもそれは嫌だった。
感謝されるのが好き‥‥それも間違いじゃない。
でも他に理由があるとするなら、出来るだけ前世の再現にならないようにしていた私が、兄さんが作ることによって、同じ道を辿るのが耐えられなかった。
私が精神も前世の妹になる気分だった。
私はその後、努力し、料理をする権利を獲得したのだが、今思うと‥‥。
「奈留~ご飯まだ~?」
「奈留ちゃん早く~♪」
‥‥兄にやらせた方がよかったかもしれない。
てかお前ら皿ぐらい並べろよ!
いや、そもそもなんでまだ広葉いるんだよ! 帰れよ!
その後、何故か広葉を含めた三人で仲良くカレーを食べました。
「あれ? 俺の布団は?」
「「帰れよ!」」