158 出発の時間
『いいよー!』
こんな簡単に認めてもらえる世界があっていいのだろうか‥‥。
いやいや、デートだよ? 桜を見たいからっていう理由で一緒に行っていいっていう人たぶん全然いないよ?
やっぱり磨北さんは、やさし‥‥‥‥いや、なに思ってんだろ、私は。
戻る前に散々二人を付き合わせないようにするなんてことを考えたのに自分の都合のいいことになったら優しいなんて、自分勝手すぎると私は自分自身が嫌になった。
でも、本当にこの二人を付き合わせないようにするなんて私に出来るんだろうか‥‥。
ううん、お兄様のことを考えたらそうするべきなんだ。
それより今は、まだそんなことを考えるべきではない。
目の前のことに集中しないと。
『楽しみだね! じゃあ、よろしくね!』
「あ、はい。 よろしくお願いします」
そして、デートの日まで少し複雑な心境のまま私は過ごすことになった。
◆◆◇◆◇◆
「─────っ! はぁ‥‥はぁ‥‥‥‥」
デート当日のまだ朝日が昇っていない頃、私は突然目を覚ました。
何故か体は汗でびっしょりだったが、理由はわからなかった。
「怖い夢でも見たのかな私‥‥。 でも全然覚えてないし‥‥」
最近、思い詰めていることが多いから、そのストレスから悪夢を見ちゃったりしてるのかもね‥‥。
「シャワー浴びよ」
もう目が冴えてしまって、寝る気もおきなかった私はシャワーを浴びたあとはそのままお兄様が起きてくるのを待つことにした。
お兄様が起きてきたのはその二、三時間後くらいだった。
◆◆◇◆◇◆
今回の乗るバスは前回のバスと同じ日の同じ時間のバスだ。
違う時間のバスに乗って、想定外のことが起きたら大変だからね。
そして、発明品は貸してもらえなかったが、通り魔に対処すべく、アイちゃんが護身用のものを何点か貸してくれた。 防刃ベストとか。
何故持ってるんだという疑問は置いておくとして、これはかなりありがたい。
防刃ベストはお兄様に着せておくべきか悩んだが、刺される首を守れるわけではないし、どう説明していいかわからなかったので諦めた。
それよりは自分が盾になった方がきっといいはずだと思って、私が着ておいた。
って、そろそろ行く時間だ。 せっかく時間を早めてもらったんだから自分が遅れるわけにはいかない。
「奈留ー、もう少し時間かかるかー?」
丁度、一階からお兄様の声が聞こえてきた。
「いえ、もう行きます!」
そして、私はこれから起こるであろうことに若干の不安を覚えつつも、気合いを入れ直して、自分の部屋を出た。




