153 偶然かそれとも‥‥
アイちゃんの言葉が全く理解できず、私は困惑する。
「ど、どういうこと、アイちゃん? お兄様が刺されたなんてそんな‥‥嘘だよね?」
『嘘でこんなこといいません! このままじゃ、また‥‥』
どうしてそんなことが‥‥バスの事故を回避すれば、お兄様は死なないんじゃないの?
バスとは全く関係のない所で‥‥どうして‥‥。
いや、まだお兄様が亡くなった訳じゃない‥‥!
「今、お兄様の状態は!?」
『刃物で首を刺されていて出血が酷く、意識はありません』
そんなのもう、助からないじゃないか‥‥!
そして、私はもう一つ大事なことを聞いた。
「その刺した犯人は誰なの?」
『すみません、自動尾行モードに切り替えていたので、咄嗟に追うことが出来なくて‥‥でも、見たことない人でした』
無差別に切った? 通り魔ってこと?
通り魔ですぐに思い浮かんだのは、小学生の時に兄に助けてもらったあの時‥‥。
あの時は奇跡的に命は無事で助かったが‥‥。
今はそんな思い出を思い返している場合ではないことに気付いて、私はすぐに頭を切り替える。
でも、アイちゃんなら人を探すのは得意なはずだ。
しかも、返り血なども浴びているかもしれないし、AIだから記憶が曖昧みたいなことがなく、はっきりどんな服装だったとかもわかるだろうし。
「でも、アイちゃんならすぐに探せるよね?」
『‥‥いえ、それが探知する機能はいらないと思って、今回はそういう機能を省いていたんです。 それに陸さん達がいる場所は防犯カメラみたいな情報を集められる機械が多くないので、後から発見するのも難しくて‥‥警察の方が早く見つけるかもしれません』
「そ、そうなんだ‥‥」
別にアイちゃんが悪いわけではない。
そんな通り魔に刺されるみたいなことになるなんて誰だって想像出来ないだろう。
『今からでも、発明品が持つ限り探させましょうか?』
「いや、そのままお兄様達の現状を見てて。 私にはそっちの方が大事だから」
そして、お兄様の死亡の報告を受けたのは、その数分後のことだった。
◆◇◆◇◆◇
磨北さんからの電話は時間を戻す前同様にかかってきた。
二回目だからそこまでなんとも思わないということは全くなく、一回目と同じくらいの悲しみと困惑だ。
でも、困惑の方に関していえば、一回目とは大きく違う。
予想外の結果になったことに困惑しているのだ。
「お兄様の行動は変えることが出来た。 でも‥‥結果としては変わってないのと同じ‥‥」
一回目の腕時計使用時に、小乃羽ちゃんが転けるという出来事があった。 その時も行動は変えたはずなのに結果は変わらなかった。
全然違うことで比べてしまっているのかもしれないが、今回のことを思ったら、繋げずにはいられなかった。
「ねぇ、アイちゃん。 お兄様が亡くなったのは偶然だったのかな? それとも必然だったのかな?」
『わかりません。 二回で判断するのが正しいとは思えません。 でも、私は偶然だと思いたいです』
私だってそうだ。 必然なんてそんな理不尽なことあってほしくない。
私はもう一度、腕に付いている腕時計を見た。




