152 歓喜と戸惑い
色々とあったが、何とかデートの前日に開始予定を変更することに成功して、私はお兄様達のデートの当日を迎えることになった。
「じゃあ、奈留。 行ってくるよ」
「いってらっしゃいませ、お兄様!」
本当は近くで様子を見ていたいが、遠出する上にバス移動では付いていくことが出来ないからね‥‥だからといって、一緒のバスに乗り込むわけにはいかないし。
お兄様、鋭いからすぐにバレそう‥‥。
それに私としては二回目だけど、お兄様としては初めての遠出するデートだからね。
事故にあうバスを回避すれば、そのままそれが初めてという大切な日になるだろうから。
そんな日に私の気配を感じるだけでも、邪魔になるだろう。
お兄様が家から出ていってから、私は急いで蕾ちゃんの家に向かった。
◆◇◆◇◆◇
『一応、私の分身が陸さんと磨北さんを追っています』
「あ、そっか! アイちゃんは単独行動出来るように蕾ちゃんに作ってもらってたもんね」
お兄様のことは電話か帰ってきてからしかわからないものと思っていたが、そういう手段があったね!
『しかし、正直バスを追いかけるというのもあって、かなり目的地に行くだけで色々と消費して、省エネモードに入るかもしれないので、うまくいったならその後、一緒に回収をお願いします』
「う、うん、わかった」
何だか少し申し訳ないな‥‥。
でも、取りに行くってことは回避できたってことだから、取りに行けるように祈っておく。
それから、私はアイちゃんに十五分置きくらいに現状報告を貰いながら、私はただじっとしていても仕方がないので、気を紛らわすために料理をしていたのだが、完成間近ぐらいの時に、アイちゃんから報告が入った。
『陸さんと磨北さんが、バスから降りそうですね。 特に何事もなく目的地に近いバスの停留所に着いたみたいです』
「よ、よかった‥‥」
出発時間は違うとはいえ、前の世界ではこの少し後くらいで磨北さんから電話がかかってきたから、今回ももしかしたらそうなるんじゃないかと不安だったけど‥‥。
『成功‥‥ですかね? 事故を回避できたということでしょうか‥‥!』
「‥‥や、やったよ、アイちゃん!」
私は久しぶりに、心から歓喜した。
そのままアイちゃんに抱き付く勢いだったが、アイちゃんはホログラムなので、そのまますり抜けてしまう。
そして、私は料理作っている最中なのを思い出して、手放しで喜ぶ前に、作ってしまおうと思って調理に戻る。
その間、アイちゃんはお兄様達を見守るようだ。
『それにしてもバスの停留所から桜のある場所まで結構距離あるんですね。 かなり歩いてますよ』
「まぁ、バスも本数が少ないくらいだから、そんなに便利なところに停留所はないんだろうね」
でも、無事に綺麗な桜を見れそうで良かったよ。
『でも、結構人は歩いてますよ。 やっぱり隠れた桜の名所なん─────』
話していたアイちゃんの言葉が不自然なところで止められたので、私はどうしたのかとアイちゃんの方を向く。
動いてるし、別にアイちゃんの方の不具合ではなさそうだ。
「どうかした?」
『ゆ、夕闇さん‥‥』
アイちゃんの表情は先程までの穏やかな感じとは打って変わって、酷く戸惑っているように感じた。
『陸さんが‥‥何者かに刺されました‥‥』




