150 当たり前だった光景が‥‥
「じゃあ私、家に戻るよ。 お兄様にデートを先伸ばしにできないかお願いしてみる」
もし、断られても粘り強くいかないと‥‥何せお兄様の命がかかってるんだし。
『わかりました。 ですが、本当のことを話しても信じてくれるとは思えないので、何か別の理由でお願いした方がいいですよ』
「そう‥‥だね。 そんな死ぬかもなんて曖昧なことで、大切なデートの日は変わらないだろうし‥‥」
『まぁ、無茶だけはしないでくださいね』
「うん」
私はその後、すぐに蕾ちゃんの家から飛び出した。
『同じ結末にならないことを祈るばかりですね‥‥』
◆◇◆◇◆◇
家の前まで来た私は、ほんの一瞬入ることを躊躇した。
本当にお兄様は家にいるのか、不安になったからだ。
もしかしたら、時間なんて戻ってなくて、お兄様は家におらず、あのひとりぼっちの家なんじゃないか‥‥と。
しかし、すぐさま気持ちを切り替えて、私は家に入っていった。
「た、ただいま帰りました‥‥!」
玄関でいつものように帰りの挨拶をすると、リビングのドアがガチャリと開いた。
「あ、お帰り奈留。 今日は早かったんだな」
お、お兄様がまだ生きている。
その姿を見ただけで、私は涙腺が緩み、体は崩れ落ちそうになった。
まだ一ヶ月も経っていなかったような気がするが、それでも私にとってお兄様が亡くなってからの時間は一日ですら、永遠と長く感じた。
だからだろう。 以前にも増して、話すことが嬉しいし、自分が何かをしようとしていたことすらどうでもよくなりそうだった。
でも今は喜んでいる場合ではないと、自分に渇を入れるため、お兄様には見えない角度で太ももをつねる。
「どうした? 大丈夫か?」
「い、いえ‥‥大丈夫です」
少し不自然には思われただろうが、なんとか耐えた。
私はその後、部屋着に着替えるため、一度自分の部屋に行ってからお兄様がいるリビングに入った。
「どうした、奈留。 疲れてるなら早く帰ってきたけど、俺が夕御飯作るぞー?」
お兄様が作る料理!?
もう食べられないと思っていたものが食べられると思ったとき、抑え込んでいた感情が一気に溢れだしてしまった。
「お願いしてもいいですか!」
「な、なんかいつもと反応が違うな。 ま、奈留が頼ってくれるのは素直に嬉しいからいいんだがな」
そうだ、私が早く帰ってきたときはいつも私が作ってたんだった‥‥というか、感傷に浸る前に早く本題を話さないといつまで経っても進まない!
「あの! お兄様、明日のことなんですけど!」
「ん? 急にどうした。 明日は前にも話した通り、祈実と出かける予定だが?」
「はい、デートなのはわかってます。 あの‥‥ですね。 日をずらしたりは出来ないでしょうか?」




