145 笑顔のために
『覚悟、というのは前に言ったこと、ということでいいんですか?』
アイちゃんの表情が険しくなる。
アイちゃんもこの前の命を捨てる覚悟があるなら戻ってもいい、ということを思い出しているのだろう。
「うん、私やっぱりあの腕時計を使って戻りたいんだ」
『それは、磨北さんが行方不明だから決心したということですよね? 夕闇さんは磨北さんに言いたいことがあったみたいですから』
アイちゃんにはちゃんとは言ってないはずなんだけどな‥‥アイちゃんにはお見通しなんだね。
「‥‥それもあるよ。 やっぱりちゃんと謝らなきゃとか、最後に会ったときに声をかければよかったとか‥‥。 でもそれ以上に 森田先輩も‥‥磨北さんも、お兄様がいないのが寂しそうで‥‥辛いんだよ。 きっと、磨北さんを見つけて謝ったとして、お兄様が隣にいた時の笑顔はもう見れないんじゃないかって‥‥」
『そうですか‥‥』
「私が不幸になったとしても、周りの皆が幸せならってそう思えたんだ。 だからアイちゃん、お願い! 私、本当に命を賭ける覚悟は出来てるから」
許可をアイちゃんが出すのが難しいことは分かってる。
この前叱ってもらったときに十分アイちゃんから感じた。
でもアイちゃんは選択肢をくれた。
命を賭けるほどの覚悟が出来たら使っていいという選択肢だが、それはアイちゃんの優しさであって、本当なら使わせたくはないだろう。
きっと私ならそんな腕時計を使わなくても乗り越えられると信じてくれているかもしれない。
でも私はまた周りに甘えて、アイちゃんの期待とかそういうものを裏切っているんだろうな‥‥。
『私は覚悟が出来たならいいと言いました。 命を賭けるほどの覚悟があればと‥‥。 それができているのなら私が止めることはありませんよ』
「‥‥え、いいの?」
私はてっきりあのときはいいと言ったけど、やっぱり駄目って言われるものだと‥‥。
『えぇ、構いません』
凄くあっさりしてる‥‥。
私に失望して、関わる気が失せたとか‥‥許可はしたけど、使うための条件は教えないとか‥‥いや、流石にアイちゃんだし、そんなことはないか。
「ねぇ、アイちゃん。 条件を教えてくれなかったりとか、壊れた腕時計を渡されるとか、そういうことじゃないよね?」
『何ですかその子供のイタズラは‥‥そんなことしませんよ。 私も一緒に行くんですから、ちゃんと教えますよ』
「あ、そうなんだ。 良かった‥‥‥‥って! え、え? アイちゃんも一緒に行くの!?」
勝手に一人で行ってこいって訳じゃないんだね。
『当然ですよ。 腕時計を使い方も知らない夕闇さんだけで使用するのは普通ならありえないことですよ。 夕闇さんを一人にはできません。 もし私が一緒じゃなければ初めなら拒否しかしてません』
「そ、そうなんだ‥‥」
でも、アイちゃんがいてくれるのは凄く心強いよね、うん。




