142 ひとりぼっち
蕾ちゃんの家から帰る途中、私は公園の隣を通って自宅まで帰る道を通って帰っていたのだが、ちらっと公園を見るとベンチに座って物思いに耽っている森田先輩の姿があった。
「あ、奈留ちゃん! おーい!」
無視して通りすぎようと思っていたら気付かれてしまった。
あのまま物思いに耽っていてくれたらいいのに。
「森田先輩‥‥何されているんですか?」
「ん、ちょっとボケーっとね」
「それは見たらわかります」
「あはは‥‥まぁ、何て言うのかな。 陸がいないとこんなに何もすることがないんだなーって思ってさ」
「そう‥‥ですか」
森田先輩はいつもお兄様と一緒にいた。
もしかすると人生でお兄様と一緒にいる時間の合計は森田先輩の方が多いくらいかもしれない。
そんな人がいなくなれば、私みたいに自殺するほどではないにしろ色々と思うところがあるんだろう。
「奈留ちゃんは大丈夫? 無理してない?」
「無理は‥‥どうなんでしょう。 してるん‥‥ですかね‥‥」
自殺してしまったことで、何だか悲しみを越えたような気持ちにもなったが、やっぱりそういう気持ちを押さえつけているんだと思う。
「してそうだね。 まぁでも、俺も似たようなものだけど‥‥。 亡くなったことを知った日は泣いたし、今も陸のことを思ったらモヤモヤするし」
少し意外だ。 森田先輩は泣くことないとイメージで思っていたけど‥‥。
「森田先輩ってもっと強い人かと思ってました」
「そんなことないよ。 昔、陸がサッカーしてたせいで遊んでくれないときがあって、その時に遊んでくれていた友達が突然理由も分からず遊べなくなった時もかなり落ち込んだし」
「森田先輩、お兄様以外に友達いたんですね」
「え、もしかしてだけど、俺陸以外に友達いないと思われてた?」
‥‥そういうことになるのかもしれない。
あ、でも前に聞いたことあったかも?
「まぁ、私としてはお兄様以外に一緒にいる人を見たことありませんから」
「そ、そういえば、そうかも。 結構友達いるんだよ俺。 でも、陸が特別っていうか親友だったから、ずっと一緒だったというか‥‥」
「本当にずっと一緒で、家に毎日来てましたもんね」
「何だかんだで楽しかったし、料理も美味しかったし。 ‥‥でも、陸がいないからもう家行けないね」
「‥‥‥‥そうですか」
お兄様がいたときは、森田先輩が邪魔だとか思っていたけれど、この時私は寂しいような、そんな気持ちになった。
その後、沈黙が続き、少し気まずくなった私は一言言って、帰ることにした。
ひとりぼっちのあの家に‥‥。
日が傾き、空が夕暮れ色に染まる頃、森田広葉は空を見ていた。
「何で前触れもなく俺のことを置いていくんだろうな‥‥。 公園でひとりはつまらないよ、陸‥‥」




