56 行こうよ!
聞いた話によると、兄さんと小乃羽ちゃんが、今週の休日に初めてのデートをするという情報が密かに私の耳に入った。
‥‥というより、兄さんが話してくれた。
もっと密かに行おうとしていたのだが、もしかしたらもう兄さんにはバレているのかもしれない。
それに、私も兄さんに隠し通せる自信がない。
それでも、尾行はしなければならない!
私はそんな、意味のわからない使命感に駆られていた。
「そんなわけで一緒に尾行しない?」
「どんなわけよ! するわけないでしょ。 そもそも奈留は何でそんなにいきたいのよ」
そりゃはじめの決意で決めた通り、モテている前世の私、尚且つ、彼女のいる前世の私を見て自分も楽しい。
それこそが私がはじめに決めたことだった。
つまりはこうだ‥‥。
私が見ないと私が楽しめないじゃないか!
見てこそはじめて実感するというものですよ。
まぁしかし、それをこの場で言えるわけがないので‥‥。
「特に意味なんてないよ! まぁでも少し心配ってだけかな」
それも本心で、兄さんが本当にちゃんとしたデートを出来るのかっていうことが、とてつもなく気になる。
落ち着いた感じだけど、たぶん付き合うの初めてだと思うし。
「それはなんとも言えないけど。 あのお兄さんだしきっと大丈夫だと思うよ」
「うん、そうだと思うけどね」
「じゃあいいじゃない。 家で待って、帰ってきたら話を聞けば」
「ぐっ、正論過ぎてなにも言えない。 すみません! 嘘ついてました、自分が行きたいだけです!」
「はぁ、まぁ頑張りなさいよ。 どうせ奈留のことだから前日辺りにお兄さんに尾行するって言いそうだけど」
わ、私の性格をよくご存じで‥‥。
う~んでもそうかぁ、やっぱり由南ちゃんは来てくれないかぁ。
でも、一人じゃ少し心細いんだよね。
他に一緒に来てくれそうな人は‥‥あ!
◇◆◇◆◇◆
「───と、いうわけなんだけど、どうかな?」
私が目をつけたのは磨北くん。
尾行すると共に、親睦を深めるために、遊ぶという一石二鳥の案を思い付いた訳である。
「お兄さん、彼女さんいたんだ」
「うん、この前出来たばかりなんだ。 今回が初デートなんだよ。 だから私も気になっちゃって」
まぁ磨北くんは興味あまりないかもだし、無理かなぁ。
「わかった、いいよ」
あれ? 自分で、誘っておいてあれだけど、無理だと思ってた。
でも、嬉しいな♪
「本当に!? ありがとう!」
こうして、当日に、磨北くんと二人で尾行をすることになった。