137 訳もわからず
「────────はっ!!」
私はマンションの最上階から飛び降りて、自殺した。
自殺、したはずだった。
しかし、私は何故か先程までいたマンションの最上階の廊下に膝から崩れて座っていた。
「どうして私生きて‥‥────うっ!!」
急に強烈な頭痛に襲われ、私はなにも考えることが出来なくなる。
痛みで呼吸をするのも辛くなる。
「ああぁぁぁぁっ!!!」
体感では長く感じたこの痛みだが、時間として考えればかなり短い時間で治まった。
今は先程までの痛みが嘘のように何ともない。
「何なんだろう‥‥もう、訳のわからないことばかりだ‥‥」
先程までの痛みもそうだし、何故か生きていることもだ。
この最上階から飛び降りて、死なないなんてことはあるわけないし、更には最上階の廊下にいるのもあり得ない。
でも、そんな意味のわからないことが多く起きたからだろうか‥‥‥‥もう一度飛び降りようとは思わなかった。
『何か大声が聞こえて来てみれば、こんなところで何座ってるんですか、夕闇さん』
「あ、アイちゃん‥‥」
『先週飛び出して行かれたときから、一度も連絡もないし、AIの私でも心配していたんですよ』
「ごめん‥‥って、先週!?」
もうそんなに経ってたのか‥‥記憶が曖昧でちゃんとした日時を見ていなかったから‥‥。
『えぇ。 ‥‥それで、何かあったんですか?』
私は初めは口に出すことで思い出してしまうことが怖かったが、段々と誰かに聞いてほしいと思って、お兄様のことを全て、アイちゃんに話すことになった───
◆◇◆◇◆◇
「────ということなんだけど‥‥」
『夕闇さん‥‥どうしてもっと早く相談に来てくれなかったんですか! マスターより頼りないことは重々承知しています。 でも、ひとりで抱え込むには大きすぎます』
「あはは‥‥本当にそうだよね」
だから、抱えきれなくなって、自殺しようとした。
お兄様以外に人はいっぱいいるのに、全然周りが見えてなかったんだ。
今は、まだ悲しい気持ちが心のほとんどを埋め尽くしているけど、周りははっきりと見えている。
『でも今の話を聞いて思いましたが、夕闇さんが自暴自棄になり、自殺のような馬鹿なことを考えなくて本当に良かったと思いますよ』
「あ、あはは‥‥」
ごめんなさい、アイちゃん。 私は大馬鹿です‥‥。
『って、そういえば、なんで廊下で話してるんですか。 夕闇さんも家のなかに入りましょう』
「あ、うん。 そうする───」
────カチャン
私が立ち上がろうとした時、何だか金属が落ちたような音がした。
私はその音の方に振り向くとそこには‥‥以前に見た、発明品の腕時計があった。




