135 一本の電話
早朝、私はいつもより早く目覚めた。
特に何もない一日で、もう少し寝ていても大丈夫だが、目が冴えていて二度寝する気分でもなく、私はベッドから起きた。
今日も蕾ちゃんの家に行くために準備をしていると、とあることを思い出した。
「‥‥あ、そういえば今日、お兄様と磨北さんで桜を見に行くって言ってたね」
まぁ、私にとってはあまり関係のないことだけどね。
結構前に予定組んでいたから、私としても頭から抜け落ちていたよ。
「お兄様はまだ寝てるかな? じゃあ、今日は私が朝食作ろうかな」
朝御飯を作るなんて久しぶりだ。
頑張って作って、お兄様を美味しいと言ってもらおう!
◆◇◆◇◆◇
「美味しいよ。 ありがとう、奈留」
「照れるのでその笑顔を少し抑えていただけると‥‥」
美味しいと言ってもらうことは出来たが、久々なので非常に照れる。
「そういえば、今日もこれから出るのか?」
「はい、この後すぐに蕾ちゃんの家に行こうと思ってます。 お兄様はお昼からでしたっけ?」
「そうだな。 祈実が朝弱いから、昼からにしようということになった」
確か、朝弱いとかって、そんなことを前に蕾ちゃんから聞いたね。
「楽しんできてくださいね」
「あぁ、初めてのちゃんとしたデートだしな。 写真撮って帰ってきたら見せるよ」
「はい、楽しみにしてます♪」
そんなこと会話をしつつ、朝食を食べ終えた。
◆◇◆◇◆◇
「じゃあ、お兄様。 いってきます!」
「道中気を付けてな」
「はい!」
お兄様のお見送りでテンションが上がった私は、鼻歌を歌いつつ、蕾ちゃんの家に向かった。
蕾ちゃんの家に着くと、アイちゃんが出迎えてくれた。
そういえば、小乃羽ちゃんとテニスをしたあの日、喧嘩してたけど、無事に仲直りをしたようだ。
本当に喧嘩していたのか、という具合にはすぐだったね。
その後、何時ものように蕾ちゃんの身の回りのことをしていると時間的には結構経過していて、お昼過ぎくらいになっていた。
お兄様達、もうバスに乗った頃かな?
一通りのことを終えて、蕾ちゃんの様子を見た。
ベッドには相変わらず目を覚ます気配のない蕾ちゃん。
「ホント、いつになったら目覚めるんだろ、このお寝坊さんは‥‥」
蕾ちゃんのほっぺたを突っつきつつ、そんなことを言っていると───
『夕闇さん』
「───っ! ど、どうしたの?」
アイちゃんが急に後ろに出てきたので、驚いたがギリギリ大声は出さなかった。 前にもあったなこんなこと。
『少しお話したいことがあるんですが‥‥いいですか?』
「それは大丈夫だけど‥‥」
急になので、どういう話かは全く検討がつかない。
でも、何か大切な話をしようとしているようなそんな気がした。
『色々としてくれる夕闇さんに言いづらいことではあるんですが‥‥私、少し前から話そうと思っていたことがありまして‥‥』
「う、うん‥‥」
ここまで聞いても検討がつかず、アイちゃんの次の言葉を待つが、中々次の言葉が発せられない。
何かあるのだろうか‥‥。
たぶん二十秒くらいの沈黙のあと、アイちゃんが口を開いた。
『‥‥‥‥あの、夕闇さん、マスターはもう───』
その時、私の携帯の電話の着信音が流れ、アイちゃんの話を途切れさせてしまう。
「あ、ごめん、アイちゃん」
『い、いえ。 先に電話に出てもらって大丈夫ですよ』
「わかった。 でも、後でちゃんと聞くから」
そして私は廊下に出て、携帯の画面を見ると、そこには磨北さんの名前が表示されていた。
まだ桜のある場所には着く時間じゃないし、まだバスかな?
もしかしたら気分が盛り上がって、バスの中だけど、かけてきたのかもしれないね。
そして、私は電話に出た。
「奈留ちゃんっ!! ゆ、ゆう‥‥夕闇くんが────」
その電話は、事故に巻き込まれた───そういう内容の電話だった。




