122 この人なら
磨北さんが言ったことが全くと言っていいほど理解できず、私は今きっとそういう顔をしているだろう。
確か磨北さんは前に兄弟はいないって言ってなかったっけ?
‥‥でも、いたっていうのは‥‥。
「名前は信くんって言うんだけどね。 丁度、奈留ちゃんと同い年で‥‥本が大好きで、真面目でしっかりしてて‥‥何だかどっちが先に生まれたかわからなくなるくらいでね」
「そ、そうなんですか‥‥」
「うん。 仲良しだったんだ‥‥」
今までの磨北さんの話と今の状況を考えると、ほとんどもう想像出来てしまっているが、こういう話はどういう風に言えばいいのかわからない‥‥。
軽く話してほしい人もいるかもだけど、私は静か目に聞いた。
「その弟さんは‥‥」
「二年前かな、交通事故でね‥‥。 正直、どうして私の弟が、って思ったり、私が一緒にいれば助けることが出来たんじゃないか、とか考えてたよ。 そこから笑うこともあまり出来なくなったし。 まぁ、その直後に比べれば今はかなりよくなった方だと思うけど、まだたまに思ったりするんだ」
そういえば、磨北さんが少し前にお花を持っていたことがあったけど、あれは弟さんのお墓に花を供えるためだったのか。
それにしても、笑うことも出来ないというのは、今の磨北さんからは想像つかないな‥‥。
「私、磨北さんの笑ったところしか見たことないくらい、磨北さんは笑顔のイメージがありましたけど‥‥」
「そうかな? まぁ、確かに奈留ちゃんと一緒にいるときは楽しいから、自然に笑顔になっちゃうのかも。 それに夕闇くんと奈留ちゃんの仲良しな姿を見てると‥‥何故だか信くんといたときの楽しかった時のことも思い出すんだよね」
正直、今日の話で何だか磨北さんの見方が少し変わったような気がする。
ただ、良い人だと思っていたのが、良い人でさらに凄い人になったかんじだ。
そんな過去を抱えていて、磨北さんみたいな振る舞いは私には絶対に無理だし、人として私は磨北さんを尊敬した。
「だから、夕闇くんと付き合おうと思ったのも、少しは二人のその輪の中に入りたいと思ったからなのかもね‥‥‥‥まぁ、好きだからが大前提としてくるんだけどね」
「ノロケですか‥‥」
でも、あまり嫌な気はしなかった。
何だかこの人なら、私以上にお兄様を幸せにしてくれるかもしれないと改めて思ったから。
どんな人かもよくわからない女に取られるよりは、磨北さんに取られた方がまだいい。
それくらい私は磨北さんのことをいつの間にか信頼していたのかもね。
「それと! このままいけば、奈留ちゃんを義妹に出来るしね。 お姉さんと呼んでもいいんだよ?」
「呼びませんよ」
何だか認めてしまうのが、少し早かったんじゃないかと今かなり思ってしまったね。




