53 てんさい
職員室の中に入ると、詩唖先生の机の場所には、もう蔭道さんは来ているみたいだった。
けど、呼んだ本人の詩唖先生はいなかった。
呼んだ本人いないってどういうことだよ!
「お~奈留ちゃん、ちわっす~」
「こ、こんにちは蔭道さん」
本当にギャップが凄いんだよなぁ。
初対面でも友達みたいな距離感だがら掴みにくいし‥‥。
「堅苦しいっすよ奈留ちゃん! 小学校も同じなんっすから名字じゃなく、名前で読んでほしいっす」
だからそういうところが、取っ付きにくいというかなんというか‥‥。
本当にこの子が毎回テストで、全て百点をとってる子なのか疑問になってくるね。
まぁ天才ってこういう人なのかもしれないけど。
「わかりました、蕾さん。 それで、詩唖先生は?」
「う~、まだちょっと固いっすね。 まぁいいや、私が来たときには、いなかったっすけど?」
「そうなんだ‥‥。 そういえば、蕾さんは、詩唖先生に何か呼び出されるようなことしたとかある?」
一応、心当たりがないか聞いてみる。
まぁ怒られるとかではないと思うんだけどな。
「詩唖ちゃんの科目って理科っすよね? う~ん、先生に言わずに早退したり、実験のとき、別の薬品混ぜたりとか、他にも色々やったっすけど、たぶん違うと思うっすよ!」
「そんなことしてるの!?」
怒られる理由ありすぎでしょ。
でも私も一緒に呼び出されてるから、たぶん違うと思うけど。
私そんなことやってないし!
「まぁでも詩唖ちゃんならその場で殴ることはあっても、呼び出しなんて面倒なことしないっすよ」
「あ、殴られはするんだね」
怒られはするんだね。
でも先生だし、物理的暴力はやめた方が‥‥。
精神的ならたぶんセーフ‥‥かな?
すると、ようやく詩唖先生が、来た。
「すまん、お前ら待たせたな。 教頭の長話が予想以上に長くてな。 ‥‥あの野郎本当に一回殴ってやろうかな」
物騒! 物騒だよ詩唖先生!
あと周りにも他の先生がいるのに、聞かれて大丈夫なのか?
「それで、今日は一体なんで呼ばれたんですか?」
「あーそれがな。 そろそろ生徒会選挙があるんだが、テスト上位のやつに声をかけろってゴミ‥‥いや教頭から言われてな。 まぁあれだ、仕事を押し付けられたんだ」
生徒会選挙か~。
そういえばこの学校なんか中途半端の時になってたな。
でも、テスト上位がこうやって先生からお願いされるのか、知らなかった。
それにしてもゴミって、また本音出てるじゃないですか。
「あぁ、それで」
「でも、詩唖ちゃん。 私がそんなの向いてないってわかってると思うっすけど?」
まぁたしかに仕事をしなさそうではあるけど。
「まぁだから一応言っておいただけだ。 やりたくなければそれでいい」
結局、生徒会に入らないかとかそういうことですかね。
「やりたくないっす!」
「もうお前には聞いてない! それで、夕闇はどうする?」
「そうですねぇ‥‥」
やったことをないことをやるのは楽しそうではあるな。
でも、ようやく付き合い始めた兄さんのことも気になるのであまり時間はとられたくないし‥‥。
「まぁお前が心から楽しいと思える方にしろ。 私はそれを尊重するから」
うわ、びっくりした!
この人、急に先生みたいなこと言い出すから驚いたよ!
「私もやめておきます。 すみません先生」
兄さんの方が重要だしね。
「そうか。 まぁそれならいいんだ。もしやりたくなったらその時はまた言え。 よし、もう教室戻っていいぞ」
あ、本当にそれだけだったんだ。
来いって言い方だったから怒られることあるのかと思ったけど。
「お疲れっす~」
そして、職員室から去ろうとする蕾さんは、何故か詩唖先生に首裏の服を掴まれ、止められる。
「しかし、蔭道お前はダメだ。 先生に向かってちゃん付けしやがって、普通にムカつく。 ストレス発散も兼ねて殴らせろ」
「横暴っすよ!?」
そのまま、蕾さんは職員室の一角にある相談室か説教室かわからないが、そこに引きずられていくのだった。
◇◆◇◆◇◆
教室に戻ると由南ちゃんが状況を聞きにきた。
私は由南ちゃんに大雑把に先生との話をした。
「なにもなくてよかったわね」
若干一名どうなったかはわからないが、なにもなくてよかったです。
「急に生徒会の話だからびっくりしたよ。 あれって立候補せいじゃなかったっけ?」
「まぁ頭の悪い人が内申点目当てで、なってもまともに仕事なんてできないって判断したんじゃないかな? 元々から頭のいい人を立候補させておくみたいな」
ありそうだな。
「私にはそんな時間ないし、ならなくてよかったよ」
「奈留、似合いそうだけどな生徒会。 まぁ奈留はお兄さんのことで忙しいもんね」
なんだその含みのある言い方は‥‥。
「そうだね。 サポートできるならしたいから」
今日の部活で小乃羽ちゃんに色々聞いてみないとね!
私は考え事をしながら放課後を待った。