96 嘘だと思いたかった
「そういえば、少し前に蕾ちゃんが倒れたときも似たような感じだったような‥‥」
「確かにそうですね‥‥。 お姉ちゃん、師匠あの時はどれくらいで回復しましたっけ?」
「えっと‥‥学校に行って帰るまでの時間だったけど‥‥。 でも、その時はアイちゃんに任せっきりだったから」
何をすればいいのか、私は全くわからない。
‥‥これだけ近くで話しているのに、全く反応がないのは通常の蕾ちゃんじゃ、あり得ないことだ。
じゃあ、やっぱり想像した通り‥‥。
「でも、こんな時にアイちゃんは何をしているんでしょうか?」
確かにこんな時にアイちゃんがそばにいないのはおかしいような気がする。
いつも蕾ちゃんと一緒にいるのに‥‥。
『ここにいます』
「「え!?」」
後ろを勢いよく振り返ると、そこには先程まで全く姿がなかったアイちゃんの姿があった。
『少し、マスターがやるはずだったことを片付けていて、先程まで外していました。 気を失う直前のマスターのお願いでしたので』
それがアイちゃんがいなかった理由か。
でも、今の言い方だと、アイちゃんは蕾ちゃんが気を失う所を見ているってこと‥‥‥‥あ、もしかして小乃羽ちゃんが疑問に思っていたロボットって、蕾ちゃんをベッドに寝かせるために‥‥。
「ねぇ、アイちゃん! 蕾ちゃんはどうしたの! まさかこの前と‥‥」
『同じ‥‥だと思います。 でも、一つだけ言えることはいつ目覚めるか私にもわからないということです』
この前と同じ‥‥蕾ちゃんが内緒にしたことの‥‥。
あの時は学校から帰るといつもの蕾ちゃんで、蕾ちゃんも話したがらなかったから、無理矢理にでも聞こうとしなかったけど‥‥。
でも、こんなにすぐに同じことが起こるなら、無理にでも聞いておくべきだったのかな。
先程から一切喋らない小乃羽ちゃんは、心がここにあらずといった様子だった。
なので私が気になるその先のことを聞くことにした。
「前と同じようにはいかないってこと?」
『はい。 もしかするとこのまま‥‥ということも考えないといけないかもしれません』
「え、嘘‥‥だよね?」
『‥‥‥‥』
アイちゃんが嘘を言うはずないことくらいはわかる。
でも、どうしても私はそれを嘘だと思いたかった。
蕾ちゃんが居なくなる‥‥?
それはどんなことよりもあり得ないと思っていたからだ。
『私がマスターのそばを離れる前に最善のことはしたつもりです。 でも、マスターは何の反応もありませんでした。 以前よりも重傷なのだろうと思います。 でもどうなっているか、次があるのかは私にもわからないんです』
「そんな‥‥」
そんな話を聞いた私は、ただ呆然と目を閉じている蕾ちゃんを見つめるだけしか出来なかった。




