51 兄は彼女を‥‥
はじめは兄視点です。
いきなりのことだったが、俺は何とか平常心を保った。
内心ではとても驚いていたが。
考えてみても、俺が福林さんに何か好意をもたれるようなことをした覚えがないからだ。
「好きって、俺が?」
「は、はい! ご迷惑なのはわかってますし、お兄様に告白なんかしていい人間じゃないこともわかってます‥‥。 だけど、好きなんです!」
別に迷惑って訳じゃないんだけどな。
それに普通に可愛いのに福林さんって自己評価低いのかな?
「いや、別にいいんだけど、福林さんが俺のこと好きって少し意外だったから」
正直にいって、そんな感じ全くなかったぞ。
俺だってただ奈留の兄として接しただけだし、この展開は予想できなかった。
「‥‥あまり表に出さないようにしてましたから。 そ、それで、返事の方は‥‥」
‥‥返事か。
でもなぁ、俺は今の所付き合うつもりとかないし、奈留の相手が見つかるまではしないつもりでいるんだがな‥‥。
まぁここは───
◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうなんですか!」
なんで、肝心な所で話し止めるんですか!
私が気になっているのはその先なんですよ!
「なぁ、奈留」
「何、兄さん?」
話を止めたかと思えばいきなりどうしたんだろう。
「もし俺が付き合うって言ったらどうする?」
「え? そりゃ喜ぶし、応援しますよ? だって兄さんの幸せは私の幸せでもありますから」
それが、私の人生の目標でもあり、楽しむためのスタート地点でもありますからね。
まぁそりゃ、寂しいという感情がないわけではないですが‥‥。
それ以上に嬉しいですからね!
「そうか‥‥なら奈留。 俺が断ったって言ったら‥‥どうする?」
何言ってるんだこの兄は。
私が何度も怒ってたのは兄さんも知ってるはずだが。
「そりゃ怒りますよ。 だって、相手は小乃羽ちゃんだし、私の大好きな後輩ですからね」
兄が嫌っていたり、合わないなら振ったって私はいいと思う。
だけど、相手は小乃羽ちゃんなのだ。
振る理由が見つからない。
それに恋が叶わないっていうのは悲しいことだから。
やっぱり悲しんでいる顔は見たくない。
「そうか‥‥」
でもなんでこんなことを‥‥。
‥‥まさか!
今の言い方といい、話の流れが、私はそうとしか思えなかった。
「まさか‥‥まさか、兄さん。 小乃羽ちゃんを振ったんですか!?」
だから、帰ってきたとき、おかしかったのか!
こういうことを言いたくなかったから。
「‥‥」
兄さんは黙っていた。
なんで答えてくれないんですか!
「ねぇ! 兄さん!」
すると兄さんはようやく口を開いた。
「喜べ、奈留」
「え‥‥」
喜べって何を‥‥。
「付き合うことになった。 福林さんとな」
兄さんは笑顔でそう言った。




