83 良い人‥‥?
「ごめんね、夕闇くん。 休日なのに‥‥」
「いやまぁ、昨日は勉強のキリが悪かったからな。 明日にしようと言ったのは俺だし気にするな」
磨北さんが突然現れ、家にあがるというまた訳のわからない出来事をなんとか意識を保ちつつ話を聞いてみると、磨北さんは今日、お兄様に勉強を教えてもらうために来たそうだ。
ここからは予想だけど、休みの日に教室などは鍵がかかっていて入れないし、それなら家でってことになったのかも?
‥‥お兄様のことだからきっとそうだろう。
「ま、妹にも許可は取ったしな」
‥‥‥‥ん!? 私、そんな敵に塩を送るようなことしましたか!?
あ‥‥もしかしてだけどあの聞いてなかったときに‥‥。
たしか、大丈夫か? って聞かれて大丈夫ですって答えてたな‥‥あれってもしかして、磨北さんを家に来させてもいいかっていう最終確認だったんですか!
なんでそんな大事すぎる情報をなんとなくで流してしまったんだー!
私のせいとはいえタイミング悪すぎませんか!
「夕闇くん、妹さんいるって言ってたね。 わぁ──凄く可愛い子だね! はじめまして、お兄さんの同級生の磨北祈実です」
「っ! ‥‥夕闇奈留です」
また考える方に思考を使っていたので、ギリギリ切り替える。
敵だとしてもきちんと自己紹介をされたら返さないといけないよね。 私は磨北さんを知ってたわけだけど相手は知らないだろうから。
でも、間近で見てみて思うが、なんだこの人から漂う無害そうなオーラは! もっと悪そうな人なら追い返すのに、この人にはそれができそうにない。
「勉強はリビングでするつもりだから。 あがってくれ。 奈留はどうする? 部屋に戻るか?」
普段の私なら確実に自分の部屋に戻るだろう。
でも、この磨北さんとお兄様を家で二人きりにするのがとてつもなく不安でならない。
「いえ、私もリビングで勉強します」
妹が見ているところでは、普通の神経を持っている人ならなにもすることはないだろう。
私のこの返事に磨北さんは少し嫌な顔をするのではないかと、横目でチラッと見てみると、何だかとても楽しそうな表情で私を見ていた。
くっ! 絶対に良い人だ、この人!
「こっちがリビングでいいのかな? あ、そうだ、奈留ちゃん。 お菓子持ってきたから食べて食べて」
「あ、ありがとうございます」
そう言って磨北さんは鞄にいれていたのか、美味しそうなお菓子を渡してくれた。
本当に良い人だ‥‥‥‥いやいや! 騙されては駄目だ! まだ会ってから全然時間が経ってないのに!
私は気を引き締めて、磨北さんとお兄様の後に続いてリビングに入った。




