45 偶然
うろうろしながら本を探している磨北くんに私は後ろから近づき、声をかけた。
「こんにちは、磨北くん」
「ん? あ、こんにちは夕闇さん」
声は落ち着いていたが、磨北くんは驚いたような表情をしていた。
まぁ突然話しかけられたら誰だって驚くよね。
「何か探してるの?」
「え? いや、ただブラブラしてるだけだよ」
「そうなんだ。 私も似たようなものなんだけどね」
実際読む本決まってないので、実際に暇である。
あの本があるとも限らないからね。
「そうだ、夕闇さん。 本は好き?」
なんか前世の貴方のお姉さんを思い出す質問だな。
「うん、好きだよ」
「じゃあ少し面白かった本について話さないかい?」
「面白そうだね。 いいよ」
何だが昔に戻ったみたいだ。
相手は弟さんだけどね。
◇◆◇◆◇◆
「磨北くんって凄いんだね。 私が好きな本も、ほとんど読んだことがあるみたいだし」
「ピンポイントで当たっただけだよ。 僕も驚いてる」
まさか、本の趣味が同じだとは、磨北くんが言ったものも私結構知ってたし。
でも、やっぱり姉弟なのか、お姉さんと趣味が似てるね。
「じゃあさ、知ってるかわからないけど、一つ知りたい本があるんだけどいい?」
「知っているなら答えるよ」
「ここの図書館にもあるはずなんだけど、【死と夢の楽園】って知ってる?」
「え!?」
磨北くんが本日二度目の驚いた表情をした。
何がどうしたというのだろうか。
「ど、どうしたの?」
「‥‥いや、またピンポイントだから驚いたんだ。 その本昔好きだった本なんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「まぁ今も好きなんだけど。 一回借りて、返却したんだけど、また借りたくなって今日来たんだけど、その本貸し出し中だったよ」
今日は無いんだ‥‥何だかガッカリだな。
でも好きってことは内容は知ってるってことだよね。
「じゃあその本ってどんな内容なの?」
「あぁそれは、夢の中で大切な人を救う‥‥いや、蘇らせようとする話なんだ」
その話に、またしても違和感を感じながらも、それだけじゃ内容がわからないので、また質問した。
「ちょっとよくわからないんだけど?」
「読んでみたらわかるよ」
なんで、そこまで言って渋っちゃうかなぁ~。
読みたくても、今はないから読めないし。
「じゃあ磨北くんはその本のどんなところが好きだったの?」
「う~ん、それはね。 た──」
磨北くんが、喋ろうとした時、言葉を遮った人物に私は寸前まで気付かなかった。
「信くん、何々デート? そうならそうだって、お姉ちゃんに言ってくれれば良かったのに」
その人物は磨北くんにお姉ちゃんと‥‥。
と、と、と、言うことはまさか!?
「ち、違うって、きさねぇ!」
ま、まさか‥‥。
「信くんの姉の祈実です。 よろしくね!」
「───!?」
私は驚きすぎて、その後の数分間、硬直していた。
◇◆◇◆◇◆
時間が経ち、落ち着きを取り戻した私は、祈実さんに、自己紹介をした。
「ゆ、夕闇、ななな奈留って言います!」
やっぱ緊張で平常心なんか出来っこないよ!
はぁ~! 絶対顔とか赤くなってるよ~。
「奈留ちゃんね、かわいい名前だね」
うわ~何この人~スッゴいキラキラして見える~。
ま、まずは仲良くなるところから‥‥。
「えと‥えーと‥‥! 友達からよろしくお願いします!」
間違った~!!
からじゃ、ないから! そこが、終着点だから!
あと何か色々すっ飛ばしたような気がする。
は、恥ずかしい‥‥。
「信くん‥‥この子──」
うわ~絶対、可哀想な痛い子って思われた~!!
「──凄く可愛いね! 私、奈留ちゃんを妹にしたい!」
え?
祈実さんが、私の頭を抱きしめる。
何この包容力‥‥もう、祈実さんの妹でいいや。
「ダメに決まってるじゃないか、きさねぇ。 もう、夕闇さんも困ってるよ」
まぁ、そうだね。
色々な意味で困ってます。
「そんなことより信くん! こんなかわいい子がいるなら、お姉ちゃん今日図書館に、一緒にきたりなんかしなかったのに」
「さっき偶然会っただけだし、クラスメイトだから! あといつまで抱きしめてるんだよ!」
わーなんかもう頭がボーッとしてきた。
ダメだー吸い寄せられるー。
何だろう‥‥この幸せは。
もう、限界‥‥。
そこで私の意識は一度途絶えた。