1 十四年目の私
新しい物語のスタートです!
第二部というか、おまけというか‥‥気軽な気持ちで見ていただければと思います。
人の運命は変えられないものだ。
それがどんなに嫌なこと‥‥例えば死ぬようなことでも、未来の運命はわからず、それ故に絶対に変えたりなどできない。
そして、変えられないことがわかっているからこそ、その運命を引いてしまわないように、極力危険なことはしないだろう。
しかし、そんなことに注意していたところで、他者からの悪事は防ぐことなど出来ない。
そこにいたから死んだ、なんてものは何をしたって無駄なのだから。
‥‥でも、そんな運命でも‥‥もし、助けられたとしたら、どんな人生を送りますか?
◆◆◆◆◆◆
私の運命はその時、終わろうとしていた───
「だ、誰か‥‥助けて‥‥。 だ、れか‥‥」
───目の前に急に現れた包丁を持った通り魔によって。
そんな非日常なことが自分に起こるなんて信じることが出来ず、私の体は全く動かず、震えることしか出来なかった。
その間にも通り魔は少しずつ私の方に近づいてくる。
「‥‥あ‥‥あ‥」
私は恐怖で、言葉も出なくなってしまった。
私の視界で見る限りには不幸なことに通り魔以外、誰もおらず、助けようとしてくれる人なんていない。
その事を頭で理解したとき、私はここで死ぬんだと、そう思った───
「奈留!」
───この声を聞くまでは。
その場に現れた兄は、恐怖なんて感じてないように見えるほど、通り魔に立ち向かっていった。
そんな自分の命も顧みず、私を助けてくれた兄に‥‥私、私は‥‥。
◇◆◇◆◇◆
「また、あの時の夢‥‥」
あの時の出来事は私にとって、二つの意味で大きな出来事だった。
ひとつは人生で初めて経験する死という恐怖。
あの恐怖は、今でも私は忘れたくても忘れることができないほど、衝撃的な出来事だった。
あの時、兄が来ていなかったら‥‥それを考えるだけで未だに身震いがする。
そして、もうひとつ‥‥それはこの出来事があって、兄と関係が大きく変わったということ。
こう言ってはなんだが、以前はそこまで仲の良い兄妹というわけではなかったが‥‥。
「っと、そろそろ起きないと、朝ごはん作れなくなっちゃう!」
家事は基本的に私がやっているが、それは私がやりたいと言ったからで、やらなければ兄がすべてやってしまう。
だから今のところは兄のやる前に私がやるようになっている。
最低限の身支度をして、急いでキッチンに向かうと、もうすでに兄が起きてきていた。
「奈留、おは───」
「───もう朝食作りました!?」
「第一声からそれか。 いやまだだぞ。 お前が作りたいっていつも言ってるからな」
兄は少し笑いながら私に言った。
あはは‥‥作ってなくて嬉しいやら、兄に気を使わせてしまって申し訳無いやら。
「ご、ごめんなさい」
‥‥今度からもっと早く起きよう。
「いいよ。 というか、朝の挨拶を忘れてるぞ、奈留」
はっ、急ぎすぎて、いつもやっていることを忘れてしまうとは‥‥。
「あ、おはようございます、お兄様♪」
「おはよう、奈留」
挨拶をした後、私は料理にとりかかる。
あの出来事があった日から、辛いこともあったけれど、今はこうして毎日が楽しい。
これが現在、中学三年生の私、夕闇奈留の変わらない日常だ。




