428 約束
私は綺麗な桜に目を奪われていた。
桜の木がこんなところにあるなんて‥‥。
前に来たときは夏だったから、まったく気がつかなかったけど、信くんは気づいていたのかな?
それはともかくとして、こんな綺麗な桜を見せてくれて、しかも夜だから日中に見ている桜とはまた違って見えて、それがまた感動した。
「信くん、ありがとう。 ここに連れてきてくれて。 凄く心が温かくなったよ」
結構前から桜をゆっくり見たいと思ったことはあったけど、つい咲いている時期になると色んなことがあって出来ないんだよね。
信くんはそんな桜をゆっくり見たいという私の気持ちに気づいてくれたのかもね。
「よかった‥‥。 奈留さんと二人で見たいって‥‥そう、ずっと思ってたから」
‥‥あれ? 何だか忘れているような気がする。
何だろう‥‥思い出せなくて、モヤモヤする‥‥。
「ねぇ、信くん。 私、前に桜を見たいって言ったっけ?」
「うん、まだ付き合う前、僕たちの前世もわかってなくて、水族館に行った時に、何処か行きたい場所はないかって話していて、奈留さんが桜を見たいって言ってたことを覚えていてね。 その時はもう桜の季節じゃなかったから」
‥‥あ、確かにそんなことを言っていたような。
そうか、それを信くんが覚えていたんだ‥‥凄い記憶力だね、信くん!
去年の春も結構ゴタゴタしていたから、見れなかったし、だから今年の春って思ってくれたのかもしれないなぁ。
「それで‥‥何だか不思議な感覚だったんだよね。 ずっと見たいと思っていたことだけど、信くんが知ってるのは何でだろって」
信くんが凄いのが改めてわかったね。
「‥‥でもそれだけじゃないんだ。 奈留さんと来たかった理由‥‥」
「え‥‥」
他にも私、何か信くんに話してたっけ‥‥?
‥‥‥‥駄目だ、全然思い出せない。
「まだ僕が磨北信じゃなかった頃‥‥前世の時に、約束したことがあったよね、一緒に見に行こうって‥‥」
‥‥あ! 確かに私が陸の時に約束をして‥‥そして実現することが出来なかったこと‥‥。
それに、あれが祈実さんとの最後だった‥‥。
「信くん、その事をずっと覚えていたの?」
「悔いが残っていたから‥‥どうしても行きたかったんだ‥‥それが最後だったから」
何で気付かなかったんだろう。
もしかしたら、あの辺りの記憶は自分でも思い出さないようにしているのかもしれないが、そこは覚えておくべきだったのに‥‥。
そうだ、確かに約束をして、私も凄く内心喜んでたんだ。
それを私は‥‥。
でも、信くんはその事を覚えていてくれたんだ‥‥。
「ありがとう、信くん‥‥。 約束をずっと覚えていてくれて‥‥」
そう言うと信くんは笑顔でこう言った。
「忘れたりしないよ。 好きな人との約束だからね」
約束については222話やその次の番外を見ていただければわかると思います。




