40 案内
「こんにちは、磨北くん」
磨北くんの前まで行って、手始めに軽く挨拶をしてみる。
「こんにちは」
「私、夕闇っていいます。 よろしくね」
「ゆうやみ‥‥?」
あれ? 何だか反応が思ってたのとちがうな。
夕闇って名字あまり聞かないし、漢字がわからないとかそういうのかな。
「あ、夕方の夕に、暗闇の闇って書いて夕闇だよ」
「あぁ、うん。 夕闇さんだね。 よろしく」
よしよし、ようやく第一歩って感じだね。
「それで、磨北くんはなんで今日こんなに早いの?」
「転校して、まだ何処にどんな教室があるかわからないから、見ておこうと思って。 そういえば、夕闇さんも早いんだね」
「今日だけだよ。 何時もはもうちょっと遅く出るんだけど、何だか暇だったから。 ‥‥そうだ! 私が学校を案内してあげるよ」
そうすれば、色々話ができて、案内で教えてあげられて、一石二鳥だね!
「え? でも悪いよ」
「大丈夫! こう見えても暇だから」
「いや、暇そうなのはわかってたけど‥‥そういうことじゃ」
「さー、行こー!」
ちょっと強引すぎたかもしれないけど、聞きたいこともあるので、ここで終わらせるわけにはいかない。
◆◇◆◇◆◇
「ふぅ、大体見て回ったかも。 楽しかった‥‥あ」
「どうかした?」
全然話せずに、案内しちゃってたー!
いや、案内のはずが、探検みたいで途中から楽しくなっちゃって。
二年も通ってる‥‥いや、実質五年通っている中学校なのに知らない教室とかあるなんて思わないでしょ!
新発見のあとはもう、話すこととか忘れて純粋に楽しんじゃったよ。
「あはは、案内中に色々磨北くんのこと聞けたらいいなぁと思ってたんだけど。 楽しくて忘れちゃってて」
「僕も楽しかったよ。 でも意外だな、夕闇さんってしっかりしてるのかと思ったら、子供っぽいんだね」
なん‥‥だと!?
これは貶されているのか?
一応長く生きているはずなんだけど‥‥。
「子供っぽいって‥‥」
「あ、悪い意味じゃないよ、悪い意味じゃ!」
う、うん‥‥あまり納得はできないね。
「‥‥そうなんだ」
「じゃあ、教室まで話ながら行こうよ。 なにか聞きたいことがあるの?」
「うん、磨北くんって、兄弟いる?」
「そんなことでいいの? 姉が一人いるよ。 祈実って言うんだけど、僕はいつもは、きさねぇって呼んでる」
やっぱり磨北さんはお姉さんだったんだ。
弟がいたなんて少し驚きだ。
そんな話したことなかったし、知らなかったのも当然かもな。
ついでに、呼び方まで教えてもらいましたよ。
きさねぇ‥‥いいな!
その理論でいくと、兄さんのことは、りくにぃ、ということになるのかな。
うん、ないな!
「へぇ、じゃあ、お姉さんと仲が良いんだね」
仲悪かったら名前とか呼ばないもんね。
前世は、おい、とかで呼ばれてましたし。
「そうだね。 まぁ仲の良い方ではあるかな。 他に何かある?」
「えっと他にはね‥‥」
その後教室まで磨北くんのことを聞いたりしていた。
気になってたことも聞けたし、大満足だね。
「ありがとう。 色々聞けて楽しかったよ」
「こちらこそありがとう。 案内してもらったし、僕も楽しかったよ」
少しは仲良くなれたかな?
また色々話せたらいいなぁ。
そして、教室に入ったとき、朝の予鈴が校内に鳴り響いた。