4 親友
「ナスはダメなんだナスは‥‥」
食事が終わり、登校する直前まで兄は呪文を唱えるようにずっと同じ言葉を繰り返していた。
「ごめんね兄さん。 嫌いなの忘れてただけなんだよ? 今度からは絶対入れないから」
本当に忘れてたんだ‥‥というより自分が食べれるから行けると思ってしまっただけなんだ。
まさかそこまで嫌いだとは‥‥。
「‥‥あ、あぁ。 いいんだよ奈留。 妹が悪いんじゃない、ナスが悪いんだ」
「なにその社会が悪いみたいなの。 それはいいとして、お詫びに今晩好きなもの作るよ。 何がいい?」
「カレーだな」
「わかった、作っとく」
いつも通りの兄妹の会話しながら登校していると後ろから聞き覚えのある声が私達を呼んだ。
「陸ーーーー!! おはよ!! 奈留ちゃんもおはよ♪」
「広葉か。 おはよう」
「森田さんおはようごさいます」
後ろからきた、こいつの名前は森田広葉。 兄の親友で、元私の親友でもある。
前世では妹の話を聞いてくれたり、元気付けてくれたり、唯一の心の平穏だと言っても過言ではなかった。
ただテンションが高いなどなどその他欠点も多いのでめんどくさいやつでもある。
「二人とも今日も仲良いな」
「まぁそれが普通だからな。 ていうか、今日早いな。 いつもギリギリの時間に行くお前がどういうことだ?」
私も初めは兄と同じ疑問を持ったが、今日が高校の入学式だと思い出したので、前世と同じであれば、何となくわかった。
「高校デビューですか?」
「うっ‥‥奈留ちゃんに言われるとなんか心に来るものがあるね‥‥。 でもその通り!」
やっぱり同じだったか。
「あっそ」
「あれ? 陸? 自分から聞いといてその反応はなくないですか?」
兄も大体の理由を察したのかもしれない。
「じゃあ一応聞く? 何で?」
「真面目になればモテると思った」
「あっそ」
「同じ反応は、やめてくれ!」
広葉がいうには、小中学校は運動が出来る人がモテて、高校は勉強が出来るやつがモテるという理論らしい。
前世では私にその話を延々と語っていたのを覚えている。
まぁそのあとすぐに現実を突き付けられ落ち込んでいたが‥。
しかし今はこんなのでも前世は私の親友だったわけだし、失敗するのはわかっていても、応援ぐらいはしておこう。
はぁ~でも懐かしい会話だな。 こうやって聞いていると、もっと前世で陸として広葉と喋りたかったな。 ヤバっ涙が‥‥。
「グスッ‥‥‥頑張ってくださいね‥‥」
「ありがとう。‥‥でもその哀れみは心が痛い!」
あれ? 何だか違う捉え方をされたようだ。
「ち、違いますよ! 本当に応援してますから」
「優しい‥‥あと可愛すぎる! 奈留ちゃん、付き合おう!」
「冗談やめてく「妹に手ぇ出したらわかってんだろうな?」‥‥」
コワッ! しかし兄よ、中身がほぼ同じでもそのシスコンっぷりには流石に引いてしまうよ?
冗談だろうし、そんなに怒らなくても‥‥。
「そ、そういうなよ。 お義兄さん」
───プチン
「奈留、少し待っていてくれ。 少しコイツに話が出来た。 すぐ戻る」
「う、うん。 出来るだけ優しくしてあげてね」
「え!? 待って、冗談だから! 助け、グワッ」
煽った広葉が悪いと思うので止めはしないが、一応軽く済むようにお願いする。
広葉は兄に首根っこを掴まれ、ドナドナされていく。
まぁなんだ‥‥‥‥強く生きろよ。
◇◆◇◆◇◆
一悶着あったあと、広葉はゾンビのように何かふらふらしながら歩いていた。
兄さんなにしたんですか!?
あれだけ元気だった広葉が全くしゃべらないんですが!
しかし、もう目の前に学校が見えていたので、真相が聞けぬまま別れることに。
「じゃあ兄さん、森田さん。 私ここで」
「おう、帰り気を付けてな」
「‥‥‥‥またね、奈留ちゃん」
あ、喋れたんですね。 よかった。
「はい」
二人に見送られ私は校門をくぐった。