366 無意識のうちに?
「あの‥‥私、その作者さんのこの本が凄く好きなんですけど、名前を知らなくて。 教えてもらえませんか?」
「え? 本の最後のページに書いて‥‥‥‥いや、そういうことなのか‥‥。 ごめんなさい、私ペンネームはわからないんです。 この本少しかすれてしまってますし」
あ、そうなんだ‥‥。 でも今まで見つけた全ての本が、ぼろぼろかもしくは作者名が見えないって意図的な‥‥いや考えすぎだよね。
でも、ペンネームがわからないって言い方だから、本当の名前は知っているってことなのかな?
‥‥本名を教えてもらうわけにはいかないしね。
名前はまた何処かでわかるよね、うん。
その後、その女の人と死と夢の楽園について、ここがよかったとか、ここが悲しかったとか、いろんなことを話した。
話しているときの、その女の人の表情はとても嬉しそうだったので、私も同じように嬉しくなっていた。
「そういえば、この本の作者さんの他の本ってあるんですか?」
「いいえ、これだけですよ。 後にも先にも」
もう、執筆活動をやめちゃったのかな?
「そうですか。 面白いから、他の本があれば読みたかったんですが‥‥」
「本人にあったら言っておきますね。 ‥‥あ、そろそろ私行かないといけないので」
まだ作者さんのこととか聞いていないけど、急いでいたところを止めちゃったのかもしれないし、ここはグッとこらえよう。
「あ、はい。 お話できて楽しかったです」
「私もです。 また機会があればお会いしましょう」
そう言って、彼女は背を向け歩いていく。
しかし、廊下の角まで歩いていた時、急に振り返り、こちらにギリギリ聞こえるくらいだが私に対して、大きな声で言った。
「夕闇奈留さん! 後悔だけはしないように生きてください。 後回しはダメですよ?」
え‥‥どういう‥‥。
何のことか聞こうとしたときには、もうその女の人は行ってしまっていた。
‥‥あ、そういえば私、本にばかり意識がいっていて女の人の名前を聞いてない。
初対面の人の名前聞かないとか、おかしくないか私‥‥。
あれ? ということは私の名前も、彼女に言ってないことに‥‥また会えるかなぁ‥‥?
‥‥ん? 名前‥‥。 あ、最後に呼んでたね、私の名前!
ということは無意識に自己紹介はした? ‥‥いや全然思い出せない。
その後、私は由南ちゃんが来るまで、廊下でモヤモヤと考え込んでいるのだった。
◇◆◇◆◇◆
部屋に戻った私は、何となく由南ちゃんが買ってきたものを聞いていたのだが‥‥。
由南ちゃんが嬉しそうに、袋から取り出しているところを見ると良いのでもあったのかな?
「はい、奈留。 これ」
「えっと‥‥それって蕾ちゃん用に買った、着ぐるみパジャマの違うやつ‥‥。 それをどうしろと?」
私と一緒の時は買っていなかったところを見ると、後から買ってきたということだろう。
「着るのよ、奈留が」
‥‥え?
「私!? というか、まさかそれを買うだけの為に戻ったって訳じゃないよね!?」
「奈留が着たそうな目をしてたから‥‥」
「私、そんな目してた!?」
可愛いけど、蕾ちゃん大変そうだなぁとは思ったけど‥‥何だか目といい、自己紹介といい、もしかして、無意識に私そういうことをしているのだろうか‥‥。




