355 流石に恥ずかしいよ‥‥
「ふぅ、ようやくお客さんの数も落ち着いてきたね」
「そうだね。 あ、奈留さん。 これ作ってみたんだけど、食べてみてくれない?」
そう言って、信くんは美味しそうなケーキを冷蔵庫の中から取り出した。
「私に?」
「うん、疲れたときには甘いもの食べたくなるかなぁと思って」
信くんが私のために‥‥ケーキを‥‥。
なんだろう、さっきまでの疲れが一気に吹き飛ぶかのようなこの感覚は‥‥。 甘いものも大事だけど、私には信くんが作ってくれたということが疲労回復の一番の特効薬だね!
「ありがとう、信くん!」
「じゃあ、ちょっとこっち来て。 ほら、あーん」
‥‥‥‥え?
危ない‥‥今一瞬、意識が飛びそうになっちゃったけど、信くん、今あーんって言った?
いや、蓮佳さんもいるのに流石に恥ずかしいというか‥‥でも、信くんはそんなの気にしてなくて、ただ食べてほしいのかもしれないし‥‥。
くっ、どちらに転んでも駄目なら、そんなの出来るだけ、信くんを悲しませない方にするしかないじゃないか。
「あ、あーん‥‥ムグムグ‥‥‥‥あ、美味しい!」
「本当? よかった‥‥。 一度でいいから僕が作ったスイーツを奈留さんに食べてほしかったんだよね」
くっ、なんて嬉し恥ずかしいことをいってくれるんでしょうか、私の恋人さんは‥‥。
しかも、信くんのたまに見せる無邪気な笑顔もとても好きで‥‥あーこれは絶対に顔が赤くなる‥‥。
「嬉しい‥‥です」
お手伝い中だってわかってはいるんですが、なんだかデートしているような、そんな感じになるね‥‥。
「いや~青春だね~。 ‥‥あ、私は気にせずに、どぞどぞ」
気にするなっていうのは無理ですからね!
というか、いつの間にこんなに近くに来てたんですか蓮佳さん!
その後、恥ずかしくて、大分仕事に影響が出たのは言うまでもない。
◇◆◇◆◇◆
カシャッ
突然、そんな音が聞こえたので、音のした方を振り返ると、カメラを持った兄さんがいた。
‥‥‥‥兄さん!?
「兄さん、何やってるんですか!」
「盗撮」
「はっきり言うことじゃないですから! 駄目ですからね!」
ていうか、何でいるのさ!
今日は中学の時みたいにメイド服来ているわけじゃないでしょ!
「働いている奈留をカメラにおさめないなんて、兄の恥だろ」
「ほとんどの兄は妹の働く姿なんて撮りませんから!」
本当に貴方だけですよ全く‥‥。
「それで、何でいるんですか?」
「学校が半日授業だったからな。 それで、こっそり来たんだ」
あーなるほど。 それでですか。
「それならそうと言ってくださいよ。 普通に学校抜け出して来たのかと思いましたよ」
「まぁ、半日授業じゃなくても行くつもりだったが‥‥」
何さらっと言ってるんですか!




