33 うっかり
「テストが終わったってことは思う存分遊べるね」
この前の告白がなかったかのように、前と全く同じような態度の広葉に、私は少し安心していると同時に、こいつの心の強さは何なのだろうと、思ってみたりもする。
「まぁ奈留はお前とはそこまで遊びたくはないと思うがな。 な、奈留?」
「‥‥どうだろうね」
う~ん。 それにしても、私の秘密を知ってるのに特にあれからなにもないし‥‥。
「何かあったか奈留?」
「あぁ森田さんに告白され‥‥‥‥え?」
「あ」
言っちゃった!?
考え事してたらポロっと‥‥。
あまり秘密だと思ってなかったからかな?
由南ちゃんに言われるのも納得のうっかりだったね。
不味い! これはとてつもなく不味い!
私は広葉に手のひらを合わせて、ごめんと、ジェスチャーをする。
「広葉?」
「い、いや陸!? これには色々あってだな‥‥」
「何故それを俺に言わない!」
あーそこで怒るんですか。
まぁ兄というのはそういうものなのかもしれないなぁ。
「そ、それは‥‥俺が悪い」
「それで結果はどうだったんだ?」
「振られたよ」
なんだか、改めて言われると何だかいけないことをした気になるな。
すると兄さんは、広葉に近づいて行った。
も、もしかして暴力!?
それはダメだよ兄さん!
そのまま広葉の目の前まで行くと、広葉の肩に手を置いた。
やっぱり、親友なんだなぁ。
兄さん広葉を励ましに行ったんだね。
そして兄さんは広葉に優しい言葉を‥‥。
「広葉‥‥ざまぁ!!」
‥‥かけなかった。
中々ひどくないですか兄さん!?
「あれー? そこは励ましの言葉とかじゃない?」
「俺は妹泥棒に優しさを与えるつもりはない。 そんな気楽な人間じゃなくてね。 さぁ広葉、選べ」
「な、何をですかね陸さん?」
「自分で命を絶つか、殺されるか‥だ!」
わぉ、今回の兄さんはいつも以上に怖い顔をなってますね。
なんか色々通り越してもう無表情だね。
「助けて奈留ちゃん! 今度こそダメだ、ダメな顔してる! 死んじゃう! 助けてーーー!!」
止める間もなく、外に引きずられていく広葉。
兄さん、今回は私のせいでもあるので全力で阻止させていただきます!
◆◇◆◇◆◇
「あ、ありがとう奈留ちゃん」
「いえ、今回は私のせいでもあるので、またお詫びはしますから」
私が発見したときにはすでにボロボロになった、しかばね‥‥ではなく広葉がいた‥‥ということにはならず、寸前に止めることができた!
久々の全力疾走ですよ。
「あぁいいよいいよ、俺もいけない部分があったしね。 そろそろ戻ろうか」
あ、死にそうになったのにまだ家には帰らないんですね。
「広葉」
兄さんが広葉を呼ぶ。
大丈夫かなぁ。
「な、なに陸?」
「次からはちゃんと俺に相談しろ」
本当に兄さんは広葉に対して素直じゃないな。
前世の私もこうだったのかな‥‥。
「‥‥ごめん」
「よし、戻るか」
こうして私達は家までの道のり、以前と変わりない会話を繰り広げた。