334 告白
本当にこのまま終わっていいのか‥‥‥‥。 月を見ながら私はずっとそんな事を考えていた。
会う約束をしていなくて、しかも話したいと思っていたことを話せて‥‥こんなにタイミングの良いこと、もう起こらないんじゃないかって、そう思うと、自分の不甲斐なさが本当に情けない。
私は臆病になってしまう自分が本当に嫌いだ。
信くんはあんなに凄いのに‥‥。
信くんは自分を変えるために前世に行って‥‥じゃあ、私は?
何か変わった部分はあるだろうか。
表面的な部分は確かに変わっているかもしれない。
だけど、奥深くの自分の本質は前世と同じだ。
肝心なところで何も出来なくて、口下手で‥‥‥‥そして、好きな人に好きと真正面から言えないヘタレで‥‥‥‥。
でも、そんな部分を変えなくちゃいけないんじゃないかって。
いつまでも親友の助けは借りられないんだから。
それに、そういうのは後悔する前にやる、って決めたじゃないか。
あの、前世での後悔のような‥‥あんなのはもうしたくない。
そう思うと、もう今しかないんじゃないかって思えてきた。
自分が告白できる瞬間も、成長できる瞬間も。
そう思うと、勝手に口が動いていた。
「信くん!」
「ん? どうかした?」
何も考えずに信くんを呼んでしまったが、ここからどう言っていいのか、わからずに口ごもってしまって、次の言葉が出てこない‥‥。
‥‥いや、今ここで言わなきゃ。
好きだから、付き合ってほしいってことを。
今言うのは、いきなり過ぎておかしいから、出来るだけ不自然にならないように‥‥‥‥。
「‥‥信くん。 一緒に花火を見たときあったよね?」
「あ‥‥うん、あったね」
「あの時にさ色んな気持ちを話してさ、そのあとすぐに帰っちゃったから言えなかったんだけど、ずっと言いたいと思っていることがあったんだ‥‥」
言うんだ、私。
大丈夫‥‥落ち着いて‥‥。
「私と、付き合ってください!」
言っちゃった‥‥‥‥。
◇◆◇◆◇◆
信くんは驚いた表情で、返事もなく固まっている。
そりゃ、何の前兆もなくいきなりだから、驚かれるよね‥‥。
でも、恥ずかしかったけど、後悔はしていない。
それで振られたとしても‥‥‥‥構わない。
「ここで言わなきゃって思っちゃって‥‥迷惑だった‥‥?」
「いや、そんなことないよ! ‥‥ただ、びっくりは、したかな?」
「そうだよね、いきなり言うから───」
「それもあるけど、こういうのは自分から言おうと思っていたから、奈留さんから言ってもらえるとは思わなかったんで、驚いたんだ‥‥。 何だろうな‥‥自分で言いたかったって気持ちもあるけど、でも素直に嬉しい‥‥」
自分から言いたかったって、ことはまさか‥‥。
「‥‥それって」
「これから、よろしくお願いいたします、奈留さん。 前世の出来なかったことも合わせて、これから色んなことをしようね」
信くんは満面の笑みで、そう言ってくれた。
その表情は何だか懐かしい、前世の祈実さんのようにも見えたが、それと同時に信くんが笑顔で受け入れてくれたことが、何よりも嬉しかった。
◇◆◇◆◇◆
告白の余韻に浸っていた私は、あまり回りの音が聞こえてこないが、何故か信くんの声だけははっきりとわかる。
今は信くんと隣で話しながら歩いているが、何だか世界が変わったようにも感じる。
凄くキラキラとしてるように見える‥‥。
「でも、前世に行ったことが半分くらい無駄になっちゃったなぁ」
「え、なんで?」
「奈留さんに告白する決意をするために行ったけど、先に奈留さんから告白されたからね」
「それは‥‥ごめんなさい!」
「いやいや、謝ることじゃないよ。 それにさっきも言ったかもだけど本当に嬉しいんだ。 奈留さんと同じ気持ちなのが。 奈留さんはどう?」
「‥‥私も嬉しい、です」
恥ずかしくて死んでしまいそうですが、それ以上に今は嬉しい気持ちが心から溢れ出ている。
「ねぇ奈留さん、さっき月の話をしていたけど、綺麗な月がある空も好きだけど、それよりも僕が好きな空があってね」
「好きな空?」
「うん、僕は綺麗な色をした夕暮れの空の方が、何だか儚さとか名残惜しさとか色んなものがあるけど、凄く綺麗だから、好き‥‥なんだ。 凄く奈留さんみたいで」
「私みたい‥‥」
「うん、丁度名字も夕闇だしね」
えっと‥‥つまりは綺麗って‥‥いや、考えないでおこう、たぶん考え始めたら、また恥ずかしくて黙っちゃう。
でも、本当に私、言っちゃったんだね‥‥。
前世からの想いを伝えて、念願かなって信くんと‥‥。
由南ちゃんや広葉にも色々としてもらったからこそだと思うけど‥‥勇気を出せてよかった‥‥。
あれ‥‥なんで、涙が‥‥。
「え、奈留さんどうかした!?」
「ん‥‥いや嬉しいからかな? 何だか夢みたいで」
「そう‥‥だね。 僕も夢なんじゃないかって思えるよ‥‥」
「信くん、あと家まであと少しだけど、家に着くまで、手‥‥繋いでいい?」
何だかこれが夢で、信くんがいなくなってしまいそうで怖かったからか、普段では絶対に言わないようなことを言ったと思う。
けど‥‥今日くらいはいいよね。
「うん、繋ごっか」
そうして私はこの日、前世からの恋を無事成就し、磨北、信くんと恋人同士になった。
いつも見ていただいて本当にありがとうございます!
次の話から章を変えます。




