331 心構えが出来ずに‥‥
「あ、取れた‥‥」
しかも、これが二回目で、そして二個目だ。
‥‥あれ? 私UFOキャッチャー得意だっけ?
確かに前世、広葉に無理矢理やらされたことはあったが、その時は、普通くらいだなって言われてたけど‥‥。
「奈留ちゃん凄い! 本当に奈留ちゃんって何でもできるんだね!」
何でもは出来ないですよ祈実さん。 まぁ特に出来ないのは恋愛とか友人とか‥‥はぁ、なんだか凄く一瞬にして取れた嬉しさがなくなった‥‥。
「そんなことないですよ、たぶん偶然うまくいっただけです。 それよりも、これ、二個取れたんで祈実さんにひとつあげます」
「え、いいの?」
「はい、私だけ持っているのも申し訳ないので」
それに、やっぱり祈実さんには笑っていてほしいと思うのは前世でも今世でも同じだから。
もしかしたら、前世でも生きていたら、こんな風に祈実さんと出かけたりしたんだろうか‥‥。
いや、こんな風は少し違うかな。 今は私は女で年下として扱われているし。
「奈留ちゃん、ありがとう♪」
でも、こういう関係じゃなかったら、こんなに笑顔でお礼もされなかったかもしれないし、うん、良かったかもしれないね‥‥。
◇◆◇◆◇◆
「奈留ちゃん、奈留ちゃん、次はあれ行こ! 写真を撮る貯金箱」
「プリクラですね‥‥何ですか写真を撮る貯金箱って‥‥」
貯金箱っていう例えにハマったんだろうか‥‥。
「だって、結構お金むしりとるから‥‥」
確かに高いなぁとは思いますが、その言い方は駄目ですよ!
しかも、祈実さんがUFOキャッチャーに注ぎ込んだ量よりは断然少ないので!
「じゃあ、やめときます?」
元々、そういうのに疎い前世だったので、今世でもあまり興味がなくて、撮りたいという気持ちは湧いてこないんだよね‥‥。
「ううん! 撮るよ! 今日の記念に撮らなければいけないんだよ」
なんの記念ですか‥‥まぁ、祈実さんと写真は撮ったことがないので、実は少し私も写真は撮ってみたいとは思う。
別にプリクラじゃなくてもいいので。
「それじゃあ、お金を入れ───「きさねぇ!」──あれ?」
あ、この声ってもしかして‥‥。
「あ、信くん、遅かったね」
「遅かったね、じゃないよ! はぐれたら元の位置にいてって前に言ったじゃん!」
「いや、いたよ? いたけど奈留ちゃんがいたから、これはもう一緒に回るしかないと思って♪」
「奈留さん? 奈留さんがこんなのところにいるわけ‥‥‥‥え?」
ほ、本当に信くんだ‥‥どうしよう、まずは挨拶、挨拶だよね?
「ひ、久しぶり‥‥信くん」
どうしよう、何にも心構えもせずに会っちゃった!
いや、まずは何事もない会話を‥‥全然出てこない‥‥どうしよう。