30 きっかけ
学校にいる間、私は先生の話が耳に入らないぐらい、とあることを考えていた。
授業がいつ始まって、いつ終わったのか、それすらもよくわかっていない。
気が付くと、由南ちゃんが目の前にいて、私に声をかけてきた。
「どうしたの、そんなにボーとして?」
「え?」
「え?‥‥じゃないわよ。 今日一日中その調子だし。 もうお昼だよ?」
いつの間にかお昼になっていたようだ。
「あ、ほんとだ‥‥」
「本当にどうしたの? 昨日は遊園地で楽しかったんじゃないの?」
遊園地は楽しかったのだ。
悩んでいたのはそのあとの帰ってからの出来事だ。
◆◇◆◇◆◇
「俺、奈留ちゃんのことが‥‥好きです」
「え? なんで‥‥」
いきなりのことに、私はうまく言葉がでなかった。
「いきなりだったのはごめん。 だけど、今、言わなきゃ一生このままだと思ったんだ」
い‥いや、そうじゃなくて。
「そ、そうじゃなくて、森田さんはてっきり妹とかにしか見てないと思ってたから。 年下は興味ないと思ってたし。 それに私、結構森田さんに優しくしてないと思うんですけど‥‥」
前世では、年上が好きと言ってたし。
「いや、別に年は関係ないよ。 それと俺にとっては、十分優しいと思うし、そんないつも通りの奈留ちゃんが好きだから」
前世でそうだったから今世でもそうなんて限らないのは前からわかってたことだけど。
「ありがとうございます‥‥。 そ、それはそうとして、返事は‥‥」
そういえば、返事‥‥どうしよう。
別に嫌いって訳じゃない。
けど‥‥
「返事は今じゃなくていいよ。 ‥‥いや、俺が少し時間を開けたいんだ。 気持ちの問題で」
「そ、そうですか」
「ごめんね。 色々迷惑かもしれないけど」
それを言い残し、広葉はリビングを出ていった。
その少しあと、玄関の扉の閉まる音がした。
◆◇◆◇◆◇
あんな広葉を初めて見た。
それでかもしれないが、私は悩んでいた。
どんな返事をしたらいいのかわからない。
「どうしたらいいんだろう」
「まずはご飯食べましょうよ。 お昼休みは永久に続くわけでもないし」
「‥‥うん」
悩んでもすぐに答えなんて出ないし、時間もある。
私は由南ちゃんに言われて、お昼を食べ始めた。
「別に言いたくないなら言わなくていいけど、何かあったの?」
「‥‥告白されたんだ」
「また? でも、いつもと違って何だかすごく悩んでるね。 どんな感じだったの?」
「それは‥‥言えない」
何だかここで広葉の名前を出すのはいけないような気がしたし、またいつもの、告白の繰り返しになる気がしたから。
「そっか、でも相談したいことがあったら言いなさいよ」
「ありがとう。何だか少しだけ心が軽くなったような気分だよ」
「それは、良かった」
話すことで何だか、気が楽になった。
ありがとう由南ちゃん。
「今回は自分で全部、考えてみるよ」
今まで理由をつけてこういうことから逃げてきたけど、真剣に向き合ってみる。
長年の友達だしね。