305 あなたは一体‥‥‥‥
引き続き、磨北信くん視点です。
後ろにいる人の顔はフードと、辺りが暗くなっているのもあり、わからないが、声は女の人だろう。
というか、いつの間に後ろにいたんだろう‥‥。
足音もしなかったし、何より人が近づいて来ていたなら、アイちゃんが一言、言ってくれる筈なのに、今回は特に何もアイちゃんからはなかった。
‥‥いや、先程から調子が悪そうだし、報告出来なかったのかもしれない。
でも、急に知らない人に挨拶をされるなんて、最近では無さすぎて、どう反応していいやら‥‥。
顔が見えないって何だか怖いけど、ただ道を聞きたい人とかだったら、申し訳ないしな。
「こんにちは‥‥」
一応当たり障りのない返事をした。
「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ」
「い、いえ、怯えているわけでは‥‥」
「まぁ、そういうところはあなたらしいですね。 ───磨北‥‥祈実さん」
‥‥‥‥え?
◇◆◇◆◇◆
ど、どうして、私のことをこの人は知ってる?
おかしい。 今の私は信のはずだ。
しかも、私が私であることを知っている人は限られている‥‥。
その限られた人だって、今世の出来事であり、前世の今いる世界で知っている人など、作業している蔭道さんとアイちゃんくらいしかいない。
しかも、その二人が第三者に喋るとは思えない。
喋ったとしても、私という顔を知らなければ、声をかけようがないはずだ。
じゃあ、今目の前にいること人は私がどういう結果でこうなったって知ってるってこと?
そんな人存在しているの?
「あの‥‥あなたは一体‥‥」
私は目の前にいるフードを被った女の人に話しかけた。
何か脅されたりとかは‥‥あったら怖いな‥‥。
「磨北祈実さん、ひとつだけ、私からのお願いです」
「え? はい‥‥」
「あなたは一週間ほど、この世界にとどまってください」
‥‥え? とどまってくれとはどういうことなのだろうか?
それに、この人がどういう人なのか、まるで見えてこない。
でも、何処かで話したことのあるような気がするんだけど‥‥。
「なんで‥‥いや、そもそも私が来たこととかも知って‥‥」
「一応、忠告はしました。 どうされるかはあなた次第ですが、出来れば私は幸せになってほしいので‥‥。 それではさようなら」
「え? ちょっと、待って───!?」
私が手を伸ばそうした次の瞬間、強い風か吹き、一瞬目をつむった私が、目を開いた時、もうそこには先程のフードを被った、女の人は、もういなかった。
でも、あの雰囲気何処かで‥‥‥‥そういえば、謎の電話の時も、こんな人だったような‥‥。
もしかして、あの電話の人と同じ人だったりして‥‥。
いや、あの時は今世だったが、今は前世にいる。
そんな世界を移動できる人、蔭道さん以外にいるわけがないよね‥‥。
少し、迷ったが、私は人違いだろうと思うことにした。
でも、一週間、この場所にとどまってほしいってどういうことなんだろう‥‥。
立ち止まっていても仕方がないので、私は一旦考えるのをやめ、蔭道さんのお家に向かって歩くことにした。




