300 AIの愛情
引き続き、磨北信くん視点です。
蔭道さんがアイちゃんと口論になったあと‥‥いや、AIと口論ってなんだかおかしい気もするけど、その後、きちんと腕の方にアイちゃんの分身がきた。
なんだかアイちゃんが二人いて、違うことを考えて、違うことを喋るって、しかももっと増やせるって本当に凄いね。
並列思考って言うんだっけな‥‥いや、AIだからそんなの関係ないか。
「じゃあ、気をつけて行ってきてね。 ついていけなくてごめんなさいね」
「いえいえ、我が儘で連れてきていただいているのもありますから。 蔭道さんは頑張って下さい」
私が何も出来ないことも理解しているつもりだしね。
「一応、磨北さんは元こちらの人間で、今は向こうの人間だから。 あとは大体察して、気をつけるところは気をつけて。 じゃあ、よろしく頼んだわよ」
『任せてください!』
『いいなぁ‥‥私もそっちがよかった‥‥』
やっぱり、二人いるって不思議な感じ‥‥というか、本当に別れてるんだね。
記憶の共有はしてるはずだから、それ以外が別になっているのかな‥‥。
「では、行ってきます」
『行ってきます!』
こうして、私は前世に来て、初めて一人、いやアイちゃんと二人だが、蔭道さんがいない中で、外に出ることになった。
◇◆◇◆◇◆
『いや~、外は清々しいですね。 うん、久々の外は埃っぽくなくて最高です』
「ホントだね~」
AIなのに、埃っぽいってわかるんですかっていうのを言いたいところだが、ただそういう雰囲気だからって場合もあるかもだしね。
『折角誰もいないし、二人きりなので、磨北さんのことよく知りたいんですが、良いですか?』
「え? はい、大丈夫ですよ」
私のことを知りたいって‥‥まぁ、アイちゃんにとっては私っていきなり現れた人ですからね。
『磨北さんは蕾と仲が良いんですか?』
「いえ‥‥まだ、一日くらいの付き合いです」
『えぇ!? それで、あれだけ話せているんですか? 蕾ってそんなにすぐに他の人を信用したりしなかったはずですが‥‥』
「森田さんもいましたし、蔭道さんが、シンパシーを感じたって‥‥」
『シンパシー? ‥‥‥‥う~ん、そうなんですか。 そういえば、磨北さんは何をしに、ここへ?』
「自分を変えるためですよ。 この世界にはいい思い出って少ないんだけど、そんなところを見つめ直したら、自分自身成長できるんじゃないかって」
こうして、前世に来ているってだけでも、いろんなところが見えてくる。
『あー、なんだか蕾がシンパシーを感じたってわかるような気がしますね。 蕾も辛いときを乗り越えてきましたから。 中学と高校を全て広葉の為に頑張ったりね』
「中学も高校も‥‥ですか‥‥」
『でも、中学のとき、広葉とは全く関係ないのに、私を作ったんだ。 やっぱり寂しかったのかも‥‥その頃はずっと一人きりだったし‥‥』
蔭道さんでも、やっぱり寂しかった時とかあったんだね。
天才だから、あまりそうは見えないが、やっぱり一人の女の子なんだよね。
『だから、蕾はそういう辛いところとそれを乗り越えようとするところを磨北さんに重ねいたのかもしれません。 ある意味では自分自身を見てたのかも‥‥』
蔭道さん、色々とあったとは聞いていたが、大変だったんだろう‥‥。
『ねぇ、磨北さん。 また向こうの世界に帰ったとしても蕾と少しでもいいから仲良くなってあげてください』
「うん、元からそのつもりだよ」
『そうですか‥‥ありがとうございます、磨北さん』
蔭道さんと一緒にいるときと違った、アイちゃんの蔭道さんへの愛情はとても普通のAIには出来ないであろう、そんな優しさだった。




