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3 十三年目の春

難しい‥‥‥‥。

「なにか懐かしい夢を見た気がする‥‥」


 カーテンの隙間から朝日が照らす中、ベッドから目覚めた私は無意識に心の声が出ていた。

 時計を見るとまだ四時半で、何時もより起きる時間は早いが何だか目が冴えていて、二度寝しようとは思わず、ベッドから出て、洗面所に向かう。


 顔を洗った後、キッチンに向かい、いつも通り朝食とお昼のお弁当を作る。

 もう何年も繰り返していることなので馴れた手つきで作っていく。


「中学二年でこの腕前は中々じゃないかな? でももう転生してから13年も経ってるんだから、当然かもしれないけど」


 独り言を言いながらも、手を休めることはなく、着々と二人分の料理ができていく。


「あ、そういえば兄さん、ナス苦手だったの忘れてた。 元々同じ人なはずなのに好き嫌いが違う事なんてあるのかなぁ? まぁいいや入れちゃえ!」


 たまにこうしたミスはあるが、料理は上手に出来ていると思う。

 両親は仕事の出張などでいないことが多いが、兄はいつも喜んで食べてくれるし、本当に作り甲斐がある。


 料理もほとんど終わり、少し休憩でテレビを見たりして過ごし、いつもの時間、いつも通り兄を起こしに兄が寝ている部屋に向かう。

 それが私、夕闇奈留。 元、夕闇陸の新たな日常です。



 ◆◇◆◇◆◇



 私が妹になり、理想に近づいているとは思う。

 理想の家族。理想の兄妹。 一人が変わるだけでこうも変わってしまうものなのかとは思ってしまう。


 少し成長して自分の精神の変化と周りの違いがはっきりしてきた。


 一つ目はすぐに女の子に馴れたことだ。

 精神が男な訳だから言葉遣いや、周りの環境に戸惑うかと思ったが、案外すぐ馴れた。

 それと女性に対して恋愛感情がなくなったとか他にも色々あるが、今はいいだろう。

 ただ、ひとつだけ付け加えておくとしたら、男に恋愛もねーよ! というぐらいかな。


 二つ目は前世の妹と今の私の顔が違うところ。

 前世はもう少し鋭い目付きだったし、こんなほわっとした顔ではなかったことは確かだ。

 これは困惑したが正直嬉しかった。 同じ顔だとあの頃のことを思い出すから。

 無慈悲な暴力、罵倒‥‥‥‥うっ、頭が!

 まぁ顔が違う理由はわからないが、嬉しいことなのでこれは素直に神様ありがとうと言っておこう。


 三つ目は前世の私と今の兄の性格が少し違うこと。

 これに関しては理由は簡単で、たぶんわたしが原因だろう。

 妹の中身が全く違うんだから、一緒に育つ兄も多少なりとも変わるようだ。

 例えば、前世の家事はわたしが、今世の家事はわたしが、やっていたのでその時点で違‥‥‥‥全部自分!?

 作って感謝されるの好きなので別にいいや。

 まぁそのせいで兄が少しだらしなくなったような気がする。

 私は前世も自分で、すんなり起きてたんだけどなー。

 今の兄は起こしにいかないと起きない事が多い。

 いや、今日みたいに起こそうとしても起きないこともあるが‥‥。


「兄さん起きて! 今起きないと朝ごはん食べる時間も無くなっちゃうよ!」


 私は兄を揺さぶるが中々目覚めない。


「高校生活初日から遅刻するつもりなのかこの兄は‥‥」


 今日は兄が高校に入学する日で、高校一年になる。 ちなみに私は中学二年で、もう始業式を終え学校が始まっている。


「おーい! 兄さん!」


 耳元で大声で呼ぶとようやく少し動き、目を少し開いた。


「あと二秒‥‥‥」


「いやそこは五分じゃないかな‥‥ってもう二秒たってるから! もう、起きてよ!」


 するとようやくもそもそと起き出した兄は、私に一言。


「妹よ、おはようのキスは?」


「するわけないでしょ! バカ!!」


 やっぱりこいつモテさせようって間違いなんじゃないのかな。

 しかし本当に、今世の兄は楽しそうだ。


「ハハッ冗談だよ。 おはよ、奈留」


「おはよう兄さん、料理も遺書も準備はバッチリだよ♪」


「さらっと、最後の朝食にしようとするのやめて!」


「私先に食べてるから」


「スルーとか、なにこの妹ひどい! あ、まっ、まってすぐ行くから待っててー!!」


 私以外にはクールっぽい性格で接してるのに、なんでこう私にはダメ人間なのか。

 同じ人間だから内側をさらけ出せるとかかな‥‥。

 これは私のせいですね!


 後ろから聞こえてくる声を無視して、私はダイニングで兄を待つことにした。

 すると兄は一分もかからず、支度を終えてダイニングの扉を開けた。


「兄さん、毎度ながら支度早いね」


「まぁな。 お、やっぱり待っててくれてる」


「一緒に行くのに先に食べる理由がないから」


 学年が二年離れている私達兄妹は、中学と高校で行く場所が違うと思いきや、ほとんど真隣に位置していて、通る道は結果同じである。

 なので途中まではいつも一緒に行く事が多い。


「いつもありがとな、奈留。 じゃあ、ささっと食べて学校行きますか!」


「別に急がなくても食べる時間くらいあるよ」


 今日も新たな日常が────




「ところで奈留」


「何? 兄さん」


「ナスは残していい?」


「ダメ♪」




 始まる。

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