293 もう一つの危険
引き続き、広葉さん視点です。
「それ以外の危険なこと?」
「あぁ、一度や二度なら問題ないんだが、何回も精神を違う体に移すと、精神が磨り減ってくるのか‥‥壊れてくるんだよ、人間としてな」
たぶん、精神と相性のいい体を使っていても、何度も移せば、きっとどんどん合わなくなっていくだろう。
それが、たとえ自分の体だったとしても‥‥‥‥。
「蔭道さんが、危険だって言っていたのは、主にそちらの方だったんですか?」
「たぶんな」
自分の用事があったのもあるだろうが、蕾にも作った側としての責任感みたいなものもきっとあるからな。
だから、もし磨北が精神のみを前世に送りたいと言ったら、蕾はその二つの理由から断っていただろう。
でも蕾は、危険なら言わなくてもいいはずなのに、二つの選択肢を出した。
きっとそれは、優しさなんだろう。
選択肢がなければ、選びようがないからな。
磨北に危険だと何回言っても、行きたいと言われたら、もしかしたら蕾は行かせることもあったかもしれない。
本当にシンパシーを感じているのかもしれないな。
あいつもたぶん、色々と後悔があるのかもしれないし、磨北に自分を重ね合わせて、後悔をしてほしくないんだろう。
まぁ、本当に危険なことなんだけどな。
「一度や二度なら問題ないとは言ったが、それは理論上のもので、実際にはやっていないわけだからわからない。 過去の自分の体と精神が合わなければ、壊れる以前に消滅する可能性だってある。 それで危険だって言ったんだと思う」
「だから、私が精神だけで戻りたいって思っていたら、行かせなかったってことなんですね。 ‥‥やっぱり優しい人ですね、こっちの蔭道さんも」
「これに関しては‥‥そうだな。 あいつも良いところはあるからな」
俺も知らない蕾の一部が知れて、磨北が来てくれて良かったなと思った。
人と関わることが少ないから、何もないと気付けないからな。
「でも、なんで危険がヒントだったんでしょう?」
そういえば、その事まだ言っていなかったな。
蕾は本当に何も説明もなく、準備に入ったからな‥‥。
「それは、俺達を見たらわかるだろ?」
「‥‥あ! 確かに! 体のままですね‥‥‥‥蔭道さんは」
おい! そこで俺は違うみたいに言うなよ!
確かに今は詩唖先生だけどな。
「今は違うが、元々は俺もだからな? まぁ、つまりはそういうことだ」
まぁ、ある意味では簡単だが、そこに気づかないだろうしな。
中途半端なヒントだな、全く。
「蔭道さんが森田さんを見ているところを思い出したら、なんとなくですがわかりました。 危険なことを森田さんにさせるわけないですよね」
「まぁ、たまに俺にたいして厳しくなるときもあるけど、でも本当に危険なことはいつの間にかあいつが片付けてるんだよな‥‥」
「本当に愛されてますね、森田さん」
「‥‥‥‥あぁ、そうだな」




