288 行きたい理由
後半から、広葉視点です。
「それで、信くんが前世に行ったって、どういうことなのさ。 というか、そんなことできるの?」
「出来てないと、今、俺と蕾がこの場所にいないだろ」
あぁ、確かに‥‥。
「でも、それは蕾さんと広葉だから出来たんでしょ? 信くんにはその手段がないよ」
「あぁ、それで、磨北は俺たちを訪ねてきたんだ」
つまりは二人の力で前世に行ったと‥‥。
‥‥あれ? そういえばなんで、信くんが広葉のこと知ってるの?
「広葉と信くんって個人的に知り合いだったの?」
「ん? まぁ、前世で一度話したことと、今世になってからも、一度自分のことを話したことがあったんだ。 一応、磨北もお前と同じ境遇だしな」
「そ、それで‥‥。 でもどういう理由で?」
「その辺は来たところから詳しく説明した方がいいかもな───」
そうして、広葉は信くんが来たときのことを話始めた。
◇◆◇◆◇◆
俺は休みだということもあり、蕾と自分の昼御飯を作っている最中だった。
その時、誰かが訪ねてきたことを知らせるチャイムが家に鳴り響く。
「ひーくん、出てもらっていいですか?」
離れた部屋から蕾の声が聞こえてくる。
「料理してる最中なんだか‥‥‥‥。 はぁ、仕方ねぇな」
あいつが俺に行かせるってことは、相当手が離せないんだろう。
でも、こんな時間に誰だ? 宅配とかも頼んでないが‥‥。
俺は玄関の扉を開けると、そこには思いがけないやつがいた。
「磨北‥‥」
「突然すみません、森田さん。 お願いがあってきたんですが、少しお話よろしいですか?」
◇◆◇◆
「はぁ!? 前世に行きたい?」
「はい、森田さんなら出来るんじゃないかと思って」
初め、こいつが何を言っているのか、わからないほど驚いた。
確か、こいつは陸のことが好きだったはず‥‥それに前世に良い印象はなかったんじゃないかったか?
「なんで、前世に行きたい? 理由によって変わってくる」
「変わってくるってことはいけるんですね?」
「いや、蕾に聞いてみないとわからん。 でも、蕾に聞く前に、理由を聞かないと、あいつに言うこともできない」
世界を越えてみて、わかることだが、そこには想定外のことが起こりすぎる。
もし、こいつが前世を変えたいという意志が少しでもあるなら、俺は蕾に話すことはできない。
それだけ、危険だと聞いたことを陸の想い人にやらせるわけにはいかない。
「別に前世を変えたいなんて、大それたことをいうつもりはありません。 私は前世に行きたいだけで‥‥」
「何が目的で?」
「‥‥目をそむけていた部分から、今度こそ逃げないで、自分自身、成長して‥‥‥‥後腐れなく、奈留さんと付き合えるような人間になるためです」
磨北のその目は真っ直ぐに俺の目を見ていた。