282 まわりこまれてしまった!
前半は由南ちゃん視点です。
陰ながら二人の会話を聞いていた私たちは、その会話に思わず、手放して喜んだ。
今日も駄目かなぁと何となく思わずにはいられなかったんだけど、ようやく‥‥ようやくね。
本当に奈留がちゃんと気持ちを伝えていて、私はとても嬉しくなった。
「いや~良かったっすね~。 うんうん」
「じゃあ、合流しましょうか」
「‥‥‥‥え? これからいいところなんじゃないんっすか?」
まぁ、確かに普通ならそうだろう。
そう‥‥普通ならだ。
だけど、あの二人の内の一人は奈留なのだ。
「たぶんだけど、今、奈留、さっきの自分の行動を思い返して、恥ずかしがってる頃よ。 これ以上、今日は進展はしないわ」
「確かにさっきから奈留ちゃん、固まってるね‥‥。 まぁ、そんなこといったら、うちの信くんもなんだけど‥‥」
今、行かないと、恥ずかしがった末に、さっきのことを取り消しかねないからね‥‥。
そういう、逃げることをしてしまうのが、本当に心配でならない。
「う~ん、キスとかその先の展開は‥‥」
「あるわけないでしょ。 そんな奈留にとっての架空の出来事」
「そこまでっすか!?」
こうしてる間にも、ジリジリと信くんとの距離をバレない程度に摺り足で離れていっているのを私は見逃さない。
はぁ、やっぱりか‥‥。
「蕾、集音器、ありがとう。 何で持ってたか知らないけど助かったわ」
離れていて全然聞こえなくてどうしようかと思っていたときに、蕾が自作で作った、離れた人の声を聞くことが出来る高性能の集音器を貸してくれた。
本当に何故持っていたかはわからないが‥‥。
しかし、途中までの会話は終わってしまっていたようで、奈留の、私はあなたのことが好きです、の辺りからしか聞けなかったのが残念だ‥‥。
でも、逆にそれを聞くことが出来てよかったかもしれない。
「由南ちゃん、もしもの時に色々と持っていくのは当然っすよ♪」
「ストーカーにはならないようにね‥‥」
「ならないっすよ!? 由南ちゃんの中で私ってどんなイメージ何っすか!」
奈留以外に気軽に話せる友達だけど? とは思っているが、蕾の前では絶対に言わないでおこう。
その方が、楽しそうだしね。
「ほら、行くわよ」
「行こー行こー!」
「あ、誤魔化した‥‥。 というか、待ってほしいっすよ~!」
待ったら、奈留が帰っちゃうでしょ。
私は奈留のいる場所に早歩きで、向かった。
◇◆◇◆◇◆
先程から、もしかしたらさっきのはいきなり過ぎたかな? とか色々と考えてしまって、信くんとどうしても一緒にいるとドキドキが止まらない。
それに、信くんにも好きって言われて、私はもう、死んじゃいそう‥‥。
なんだろう‥‥好きだけど、今は信くんから逃げ出してしまいたい!
「‥‥し、信くん? 私そろそろ───」
「ちょっと、待った───!!」
「ゆ、由南ちゃん!? いつの間に来たの?」
急に後ろに由南ちゃんが!
その少し離れたところに、蕾ちゃんと祈実さんもいる。
「さっきよ。 ようやく合流できたわね、奈留。 もう結構花火上がっちゃったけど、今からは皆で見ましょうよ。 磨北くんはどう?」
「えっと‥‥うん。 僕もその方がいいかな」
「決まりね。 じゃあ、奈留。 もう少しここにいるわよね?」
「えっと‥‥はい」
由南ちゃんの誘いは断りたくないので、私はドキドキしながらも、その場で空を眺めた。