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280 前世でも今世でも───

「私もね。 前世に好きな人がいたんだ」


奈留なるさんにも?」


 しんくんは驚いた表情をした。

 私がいきなり話したから驚いているのか、あまり人の関わりがなかった私に好きな人がいたことに驚いているのか‥‥後者だった場合は、まぁ、恋愛なんてしたことがなかったので、全く否定できないが‥‥。


 祈実きさねさんという初恋の人に出会うまでは恋愛なんて感情すらなかったわけだし。


「私もね、いつの間にか好きになってたんだ。 その人のこと」


「そ、そうなんだ‥‥」


 しんくんの表情が一瞬、暗くなったような気がしたが気のせいだろうか。


「皆を笑顔にできるところとか、私凄く憧れたなぁ。 こんな風になりたいって思ったし、何より私に対しても笑顔で接してくれたのが嬉しかった。 もっと一緒に話したいなんて、前世で思ったのって友人以外には、その人くらいだった‥‥」


「す、凄い人がいるんだね‥‥」


「うん。 本当に凄い人。 私のね、その人の一番好きなところはどんなところでも変わらない優しさなんだ。 何処で出会っても最終的には楽しくなれたし、私も自然と笑顔になれるし」


 私は祈実きさねさんに出会えただけでも前世は幸運だったのかもしれない。

 こうして、少しでも好きで居続けられる可能性がまだあるのだから。

 前世がなかったら、きっと友達になれたかも怪しい。


「前世でって言ったけど、それは今世も同じなんだ」


「え‥‥今世?」


「うん、今世でも前世でも変わらない優しさがあって、私は同じ人だって知らなかったのに、また惹かれたんだ」


「同じ人‥‥」


 言おう言おうとして、中々言えなかったことだけど、今の私はつまらずに言えるような気がした。


「だからね。 私、磨北まきたさんも好きだし、しんくんはもっと‥‥」


「‥‥それって」


 本以外のことも知って、弱い部分も知って、そしてまた笑顔を知って‥‥私は前世にいた頃よりも‥‥。


 もっと‥‥。



「私はしんくんが好きです。 前世でも今世でも、そんな世界や時間の壁なんて関係なく、俺‥‥私は、あなたのことが‥‥好きです」




 ◇◆◇◆◇◆




 今になって思うとしんくんの前でしんくんの好きなところを話すって相当に勇気がいった。

 今は凄く恥ずかしい‥‥でもしんくんも同じように話してくれたんだ。 私が恥ずかしがっている場合じゃない。


 しかし、しんくんが先程から黙っている。

 たぶんだけど、きっと断る言葉を探しているのかもしれない。


 ‥‥悲しいけど、私は十分に幸せだ。

 自分の気持ちを伝えることが出来ただけで。


「ごめんね! しんくんからしたら迷惑かも───」


「僕が迷ってる間に言おうとしていたこと、全部、奈留なるさんに言われちゃった」


「‥‥え」


 それって───。



「僕も、好きです。 奈留なるさんのこと。 今でもずっと‥‥」

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