279 疑心暗鬼
夕闇くんが‥‥好き?
‥‥前世で、夕闇って言えば、私しかいないよね‥‥あと、妹と。
いやいやいや、聞き間違いだよね!
信くんにそう言ってほしいからって、私の脳が勝手に変換したにすぎないんだ!
そんな、勘違いは絶対にしてはいけないよ、私!
絶対に、何言ってるの? って顔されるだろうし‥‥。
きっと本当は、ゆうもきくんとか、ゆうまみくんとか、そういう人を言っているに違いな‥‥‥‥いや、絶対にいないな、そんな人。
でも、ゆうきくんとかゆうまくんとかそういう他の人の名前で発音が似ていたから、そう聞こえたに違いない‥‥。
そんな、ただの聞き間違いじゃなかったら‥‥‥‥私、どうしたらいいかわからないよ‥‥。
信くん、もう一度言ってくれるのかな?
「‥‥ねぇ、信くん。 もう一度、言ってもらうことって‥‥可能かな?」
「その‥‥夕闇くんが好きだったっていい‥‥ました」
‥‥‥‥あ、もう意識が飛びそう‥‥。
つまりは、先程までのことは全部、陸‥‥私の前世のことを言っていたってことか‥‥。
た、確かに先程の話は前世の私と似たような‥‥とは、改めて考えてみると、そのままだった。
私のことが‥‥好き‥‥か。
あれ? ‥‥つ、つまりは、私は前世の私に焼きもちをして、あとは信くんにめちゃくちゃなことを言ったりしたんじゃないだろうか!?
「ご、ごめんね! 二度も聞いちゃって!」
「ぼ、僕の方こそいきなりこんなこといって、ごめん」
「いえいえ‥‥!」
改めて理解した私は、嬉しくて、顔がにやけてしまいそうになるのを必死に我慢していた。
だって、そんなことってある? 祈実さんが‥‥私を‥‥。
好きな人に、好きだったと言われて、喜ばない方が無理があるのだ。
どどどうしよう‥‥! ここはすぐにでも返事をするべきだよね。
でも、何を言っていいのか‥‥、一度頭が真っ白になってしまった私だが、いつも通りの思考を取り戻すにはまだかかるだろう‥‥。
────あれ? でもちょっと待てよ‥‥?
前世で、好きだったからって、今世もそうとは限らないんじゃないか?
私の、前世でも今世でも全く同じ人を好きになる方が稀で、信くんはとっくに今世で好きな人がいて‥‥だから私に昔は好きだったんだって言ってくれたってことだって考えられる。
もう思い出だから言ってもいいか、みたいな感じで‥‥。
先程とは打って変わって、先程までの嬉しさは何処に行ってしまったのか暗く‥‥‥‥いや、まだそうと決まったわけでも、さらには告白だってしていない。
私は暗くなりそうな自分の心に渇を入れた。
そうだよ。 信くんが昔のことだったとしても、勇気のいることを話してくれたんだから、私だって自分の気持ちを信くんに聞いてもらった方が、絶対に後悔しないと思う。
それに元々、いつかは告白するつもりではいたんだ。
色々と頑張ってくれた由南ちゃんの為にも、ここでやらないといけないと私は今までのことを思い返して、そう思った。
駄目だったとしても、きっと信くんは友人のままでいてくれるだろう。
私は覚悟を決めることにした。