277 知りたいことと‥‥
高台から見る、屋台の回りの人混みや、遠くの夜景。
由南ちゃんと来たときも見たはずなのに、私はこの景色に初めて見たときと同じくらい見入っていた。
先程までの由南ちゃんのことが小さなことのように思えてくるほど綺麗で、気持ちが風景の方に移っていた。
「綺麗‥‥だね」
「うん、前来たときもそうだったけど、本当に凄いよ‥‥」
「本当に、なんでこんなに良い場所なのに、全然人がいないんだろうね」
由南ちゃんとも、そんな話をしたことがあったが、たぶん急な階段だし、上るのが大変とか。
あとは‥‥。
「やっぱり、お祭りの屋台も楽しみたいからじゃないかな? ほら、ここに来ちゃったら、屋台に中々戻れないでしょ?」
「まぁ、結構上ってきたしね。 そっか、まぁ、下にもいっぱいスペースはあるし、中々上がってこようとは思わないんだね」
基本的に花火見たいってだけの人もいるかもしれないが、家族で何か食べて、ワイワイしながら見たいみたいな人は下のスペースに行くしね。
「でも、良かったよね。 騒いでも、誰の迷惑にもならないし‥‥まぁ、騒がないけど」
「そうだね。 ゆっくり静かに花火まで待とうか」
私達は近くにあるベンチに腰かけた。
静かな空間のせいか、虫の鳴き声が聞こえてくる程度の音しかない。
信くんとこうして、何もないところで話すことはまずないので、緊張と合わさって、話題が中々出てこない。
真っ先に出てきたのが、なんだかありきたりで、今聞くことか? と思うようなことだった。
「す、好きな食べ物は何ですか?」
「え、どうしたの、奈留さん? 特になんでも食べるけど‥‥強いていうなら、ポテトサラダ‥‥とか?」
「そ、そうなんだ!」
なんだか急な変な質問にも答えてくれた、信くんに申し訳ないのと同時に、信くんの好きなものが知れてなんだか嬉しいな‥‥。
「‥‥そういえば、奈留さんは好きなものとかってある?」
ん、食べ物のことかな?
「私も特に嫌いなものはないからなぁ~」
でも、こうやって普通の質問をしてみるのも良いのかもしれないなぁ。
信くんとは本の話や、過去の話なんかはしたけど、こういう身近な質問って、そんなにしたことがなかった。
こういう機会に色々と聞いてみるのもいいかもしれないな。
◇◆◇◆◇◆
「信くんは甘いもの、結構好きなんだね」
「うん、だからかもだけど、お菓子作りをしてみたいなぁなんて思ってもいるんだよね」
お菓子作りと言えば由南ちゃんだから、今度教えてもらうのもいいかもしれないな。
「信くんなら、出来そうだけど。 料理だって凄くできるし」
「きさねぇを見たらわかると思うけど、僕もそんなに料理が出来たわけじゃなく、最近覚えたようなものだよ。 やり始めたのも好きな人が出来たからなんていう理由だしね」
「そうなんだ‥‥‥‥え?」
す、好きな‥‥人‥‥?
 




