276 二人だけの空間
前半は由南ちゃん視点で、後半が奈留ちゃんに戻ります。
奈留と磨北くんが金魚すくいをしていた時、私はそれを影ながら見守っていた。
二人が二人っきりになったのは、本当に偶然だったが、それが良い偶然であることは明らかだ。
私はすぐさま、奈留を追いかけた。
祈実さんと蕾はどうしようかと思ったのだが、二人も見たかったようで、付いてきている。
二人きりになって、雰囲気が悪くなるようだったら、すぐにでも合流する予定だったが、その必要はないようで、結構良い雰囲気だ。
お兄さんや森田さんが金魚すくいにいたのは予想外だったが、気付かれないようで良かった‥‥。
「ねぇねぇ、由南ちゃん。 そろそろ花火始まるっすよ? 二人と合流した方がいいんじゃないっすか?」
「バカね。 これからが良いところなんじゃない。 まだよ」
「蕾ちゃん、ここは我慢だよ! お姉さんも弟の今後に、ワクワクです♪」
「お姉さんもっすか‥‥えー、でも皆で見たかったっすよ‥‥」
「もう‥‥花火が上がって終わるまでには合流しましょうか?」
「そうだね」
合流するまでに、何か進展があればいいんだけど‥‥。
期待だけなら、しても損は無いわよね。
◇◆◇◆◇◆
昔、花火を見るために、他の人のいない空間を由南ちゃんと一緒に探したことがあった。
由南ちゃん、人が騒いでるの嫌いだから花火が始まっても色々と歩かされたけど、そのお陰で花火が見れて、開けた場所を見つけることが出来たのは良かったと思う。
今こうして、信くんと本当の意味で二人きりになれているのだから。
しかも、由南ちゃんは、当然この場所を知っているので、花火が始まればこの場所に来てくれるだろう。
「信くん、こっちこっち!」
「こんなところがあるなんて‥‥。 しかも結構階段も上ったから結構高い位置にあって良いね」
「由南ちゃんと見つけたんだよ」
「よかったの? 二人の秘密とかそういうのじゃないの?」
「いや、別にそんなのはなかったはず‥‥え? よかったんだよね!?」
あ、どうしよう、もし他の人に知られたくないと思ってたら?
人が増えるのをよしとしないかもしれないし、怒られるかもしれない!
ヤバい! 謝らなくちゃ!
私は急いで携帯を取り出し、由南ちゃんに電話をかけた。
ピ‥‥‥‥
あれ? なんだか一瞬で、切られた‥‥。
これはいいってこと? ‥‥‥‥うん、なんだかいいって言われているような気がしてきた。
なんだかいないはずの由南ちゃんから睨まれたような気がしてきたし‥‥。
うん、いいってことにしておこう!
◇◆◇◆◇◆
その頃、物陰から見ていた三人は‥‥。
「由南ちゃんって、目だけで言葉を伝えられるんっすか?」
「え? 何言ってるのよ。 出来るわけないじゃない」
「親友だからなせる技だね~」




