275 少しの不運と幸運
「信くん順番回ってきたよ!」
私達はお金を払い、屋台のおじさんから、ポイを貰うと早速、金魚達が泳ぐ、ビニールプールの前にいくと、少し違和感が‥‥。
「‥‥あれ? 信くん、ここって金魚すくいだよね?」
「うん、そのはずだよ」
「‥‥じゃあ、なんでカニとか鯉とかいるの?」
「‥‥なんでだろう」
なんか、手に入る水の生き物詰め込んでみました! みたいな感じになっていないか!?
いや、金魚の割合が多いのは確かだし、金魚すくいなんだろうけど‥‥。
「ポイで鯉は取れないよね?」
「相当、手首に力がいりそうだね‥‥。 でも綺麗だし、この錦鯉」
「た、確かに‥‥。 でも、もう観賞用として放っているって思った方がいいかもね。 狙うは金魚のみ!」
「僕も金魚飼ってみたかったしね、頑張るよ。 あ、ポイは一人二枚で、交代だって。 まぁ、ずっといられたら屋台回らないもんね」
う~ん、二枚でか‥‥。
ということは兄さん達、結構すごかったのかな?
「よし! がんばるぞっと‥‥」
「僕も始めようかな」
そうして、私は無言で、ポイの近くに金魚が来るのを待つ。
‥‥‥‥きた!!
私は出来るだけ慎重に、でも素早く、ポイを水の中から出した。
すくいあげて、すくいとり容器を見ると、容器のなかには、ちゃんと金魚がいた。
や、やったー!
人生で初めて取れた♪
「一匹目取れた! 信くんは取れ‥‥‥‥た?」
見たところ、容器の中にはまだ一匹も入ってない。
まぁ、まだポイは一枚目だし問題は‥‥‥‥。
あれ? なんで紙の破れた一枚目のポイが、信くんの足元にあるんだろう‥‥?
なんで、持っている二枚目のポイも破れかけているのだろう‥‥。
ま、まだ、さっき始まったばかりだよ? まさかそんなもう破れたわけ‥‥あるみたいだね‥‥。
なんだろう、もしかしてだけど、信くんって不器用だったりするのだろうか?
今、思えば射的も‥‥いや、射的は私の方が酷かったね‥‥。
「信くん、ポイ、二枚目なの?」
「あ、うん‥‥何故かわからないけど、ポイを水に浸すと、鯉が紙に体当たりしてきたんだよね」
あ、そういう‥‥鯉に好かれてるってことなのかな?
きっと、信くんの優しさに触れて‥‥いや、たぶん何となくで突っ込んでくるんだろうな‥‥。
「でも、今は違う方を向いてるし、チャンスだよ!」
「よし!」
信くんがもう一度、水のなかにポイを浸けると、そこには丁度、カニがいて、残っていた紙がカニによって切られてしまった。
なんという不運!
「カニのハサミで紙が‥‥‥‥こんなことあるんだね」
「うん‥‥」
こうして、私は一匹、信くんはゼロという結果になった。
◇◆◇◆◇◆
「信くん、この金魚、いる?」
「え? 奈留さんが取ったんだから奈留さんのだよ」
「いや、射的のぬいぐるみのお礼っていうことで、信くん金魚ほしそうだったし‥‥。 あ、迷惑だったらいいんだよ?」
「‥‥‥‥いや、迷惑ってことはないけど‥‥ほ、本当に?」
「うん♪」
「あ、ありがとう。 奈留さん!」
信くんのキラキラした笑顔を見て、なんだか私も嬉しくなった。
一匹でも、取れてよかった~。