273 夢のような‥‥
お祭りをまた二人で歩く、今。
隣を見れば、信くんがいるという光景に、思わずデートという言葉が頭に浮かんで、私はすぐに違うことを考えれるように頭をリセットため、自分の頬をつねる‥‥痛い‥‥。
‥‥確かに頭はリセットできたけど、頬をつねるって夢か確かめるときじゃなかったっけ‥‥。
まぁ、夢じゃないから覚めないけど、夢のようだよね‥‥。
こうして、前世から好きだった人と歩くなんて、少し前までは夢の出来事でしかなかったのにね。
今はこうしていることが、本当に楽しい。
信くんと初めて一緒に外で遊んだときは、今思うと全然違っている。
まさか、あそこからこんなに変わるなんて誰が想像できただろう。
「一秒、一秒、無駄にしないように生きないとね‥‥」
「どうかしたの?」
「え! な、なんでもないよ。 あはは‥‥」
信くんが隣にいるのに、黙ってちゃ駄目だよ、私‥‥。
「奈留さん、何処か回りたいところとかある?」
「あ、金魚すくい! ‥‥してみないかな? 私やったことなくて‥‥」
人生でまだ一度もしたことがないので、ちょっとしてみたいって思っていたんだよね。
由南ちゃんと一緒に回った時なんかは、人の多いお店の前に、長時間いるのが辛いとかなんとか言って、一緒にやってくれないから、結果やらなかったんだよね。
いや、そんな長時間じゃないでしょと思うんだけども‥‥。
「いいよ。 そういえば、僕もやったことないな。 僕が引っ越し前に住んでいた近くのお祭りは金魚すくいがなかったからね」
そうなんだ。 あれ? でも前世で友達とここに来てやらなかったんだろうか‥‥。
まぁ、お祭りに来て、絶対に金魚すくいするってわけじゃないもんね。
「無いところもあるよね。 その代わりスーパーポールすくいとかがあったりとか」
小さなお祭りだと、食べ物くらいしかないところだってあるし。
「ここは大きいから、どっちもあるし、凄いね。 そりゃこんなに人も多くなるよ」
この地域で一番大きなイベントと言ってもいいんじゃないかというほどだから。
まぁ、毎年あって、人も多いから、私とか由南ちゃんは誘われないと行きにくいお祭りでもある。
「じゃあ、金魚すくいに! ‥‥‥‥人が多いね」
先程まではまだ人が少ない所を歩いていたが、ここからは人が多い。
これはまた、はぐれちゃうんじゃないかと心配になるね。
「そうだね。 じゃあ‥‥‥‥手、繋ごっか?」
「────っ!」
信くんがそんなこと言ってくれるなんて思っていなかったので、とても驚いた。
「駄目?」
信くんを見ると、信くんの顔が少し赤いのに気づく。
あ、信くんも私と同じで恥ずかしいのかな?
恥ずかしいと思っていても、私の為に言ってくれているんだよね。
「ううん‥‥駄目じゃない‥‥です」
こうして私は信くんの差し出してくれた手を、そっと握った。




