272 電話で居場所を
少し人の流れから外れたところに出た私達は、一度、由南ちゃんに電話をかけることにした。
もしかしたら、心配してくれているかもしれないしね。
電話するため、信くんに断って少し離れたのと、人混みから出たので、現在は手を繋いでいない。
ちょっと、名残惜しくはあったが、平常心で由南ちゃんに電話するにはそうしないとね。
『もしもし?』
「あ、由南ちゃん! 私だよ」
『‥‥‥‥誰?』
「奈留だよ! 電話出たときに画面に名前出たでしょ!」
由南ちゃん、絶対に気付いてて、わざとわからないフリしてるよ‥‥。
『あはは、ごめんね。 それで、どうしたのよ』
「どうしたのって、はぐれちゃったから、今どこにいるか聞こうと思ったんだけど?」
あれ? 由南ちゃん、まさか私のこと、まるで気にしてなかった?
というか、忘れてた?
『今、磨北くんと一緒にいるんじゃないの?』
「え? うん、そうだけど‥‥」
『‥‥なんで、それで私に電話かけてきてるのよ。 で、今どんな状況よ』
「色々とお話したりとかしてたけど‥‥あとは手を繋いだりとか‥‥」
ちょっと、言うのを迷ったが、由南ちゃんにはちゃんと報告しておきたいからね。
『へぇ‥‥。 もう電話切っても大丈夫?』
「駄目だよ!? まだ由南ちゃんの場所とか全然聞いてないんだから!」
別に私、報告する為だけに由南ちゃんに電話しただけじゃないんだからね!
『そうだったわね。 ちゃんと奈留が磨北くんと一緒にいることにほっとして、色々と喋りすぎたわね。 それで、場所ね。 奈留の方は何処にいるの?』
「私は───」
私は大体の場所を由南ちゃんに教える。
『あー、たぶん大分離れてるわね。 会うにはまたあの人混みを潜り抜けないといけないし、大変かも』
「やっぱり、反対方向なんだ‥‥」
じゃあ会うのにも時間がかかるかも‥‥。
『まぁ、近くに行ったらまた電話するわね』
「え? 由南ちゃん!? 由南ちゃ───切れちゃった‥‥」
まさか、切られるとは思っていなかった。
まぁ、由南ちゃんにはとっては二人きりにしたかったんだろうし、偶然だけど、良い結果なのかもしれない。
私もまぁ嫌っていうわけではなく、逆に心があったかくなっているんだけれども。
電話が終わったことがわかったのか、信くんが私の近くにきた。
「灘実さん、なんだって?」
「今は遠いから、近くに行ったら連絡するって」
「そうなんだ。 じゃあ、もう少しここで休憩しつつ、そのあと少しでも、お祭りを回ろうか」
まぁ、由南ちゃん達とさらに離れるかもしれないが、その時はその時だろう。
そして現在、私たちがいるところは屋台から離れているので、あまり人もいないし、休憩するにはもってこいだ。
「そうだね。 せっかく来たんだもん、二人でも楽しまないとね」
一度、手を繋ぐということを経験したからか、繋いでいない状態だと緊張もなく普通に喋れることになんだか内心、少し自分で驚きつつも、信くんとどんなところを回るか考えることにした。




