270 安心できるから‥‥
「でも、よかったよ。 一度見失っていたら、大変だっただろうから」
「本当に、ご迷惑をおかけして‥‥。 ごめんね、私のせいで、皆とはぐれちゃったし‥‥」
「大丈夫だよ。 奈留さんと二人で、一緒に回るのもきっと楽しいよ」
いや、楽しいのは楽しいだろう、私はね?
でも、信くんは祈実さんとかと回りたかったんじゃないかって、そんなことが頭をよぎってしまうのだ。
「信くんは‥‥それでいいの?」
「友達なんだから、当然でしょ?」
う、嬉しい!
いつもなら、友達止まりで‥‥とか思っちゃうところだけど、今は素直に心に入ってくる。
あぁ、もう、前世も今世も優しすぎるよ‥‥。
「ありがと‥‥」
「じゃあ、きさねぇたちを探しつつ、他の屋台も見て回ろうか」
信くんの言葉に私は無言で頷いた。
でも、出来れば由南ちゃんたちを見つけるのはもう少し先になってほしいなぁ、なんて考えてしまっている私もいるわけで、なんだか信くんに申し訳ないというか‥‥。
その後ろめたさなのか、ただ緊張しているのかはわからないが、信くんの顔を見れないでいた。
‥‥ま、まぁ、いつものことだね。
私が頭でそんな事を考えている間にも、人の流れで、どんどん進んでいっている。
でも今はこうして手を繋いでいるので、離れないように歩けて‥‥‥‥手を繋いでる!?
え! え? なんで!? なんで今、信くんと手を繋いで歩いてるの!?
なんだか、ずっと無意識だったけど、というか、すんなりだったから気付かなかっただけ?
なんで、こんなことに気付かなかったんだ私!
いや、気付かない方が変な緊張をしないでよかったかもしれないけど!
確かに一度、信くんの話を聞いたときに、手を繋いだことはあるけれども、あれは私から信くんに握っていたから、何となく耐えられたのだ。
こ、こんな、好きな人から握られて、しかもならんで歩いているなんて‥‥心が持ちそうにないな、本当に。
「信くん‥‥手‥‥」
「‥‥え? あ! ご、ごめん! 無意識に握ったままだった! い、嫌だったよね。 ごめんね」
今日、初めて信くんの笑顔じゃない表情を見た気がする。
恥ずかしそうな、でも照れているような‥‥。
いつもは平然として、落ち着いている信くんが照れているところを見ると、ギャップのようなものを感じて、なんだか良い‥‥。
なんだろう、少し緊張がおさまった気がする。
「嫌じゃないよ‥‥。 それに今離したらまたはぐれそうで怖いから、もう少しこのままじゃ、ダメ‥‥かな?」
「う、うん。 わかったよ」
信くんの顔が赤くなって、たぶん私も同じような顔をしているだろう‥‥。
‥‥‥‥自分で言っておいてだけど、凄く恥ずかしい!