269 掴まれた手は‥‥
「口がヒリヒリするっす‥‥」
ロシアンたこ焼きを一人で完食した蕾ちゃんは買った時とは比べ物にならないほど、テンションが下がっていた。
「大丈夫? かき氷食べる?」
「今、食べ物は‥‥‥‥かき氷!? いるっす!」
そう言って、蕾ちゃんは私が持っていたかき氷を受けとると、すぐ食べ始めた。
ちなみに、かき氷は蕾ちゃんが、たこ焼きを食べるのを頑張っている間に買いにいきました。
やっぱり、お祭りでかき氷は鉄板だからね。
「それにしても、さっきより人が多くなって来たわね」
「そろそろ、本格的に暗くなってくる頃だからね」
夜には花火もあるので、それに合わせて来る人も多い。
屋台に挟まれた中央の道は、今の時間でも、一歩入ると中々抜け出せなそうだ。
「じゃあ、これ以上多くなる前にもう少し回っていた方がいいわね。 でも、もう結構多いから、はぐれないで‥‥ね!」
「その、ね! のところで私を見るんっすか! 問題ないっすよ」
蕾ちゃんはそう言っているけど、由南ちゃん全然信用していなさそうだな‥‥。
「じゃあ、お姉さんと手を繋いでおけば大丈夫だね♪」
そういって、祈実さんは蕾ちゃんの手を繋ぐ。
なんか、姉妹みたいでいいな、それ。 ちょっと羨ましい。
「祈実さん、よろしくお願いします」
「くっ、子供扱いが過ぎると思うっすよ‥‥」
蕾ちゃんは凄く不満そうだけど、祈実さんはなんだか嬉しそう。
「じゃあ、いきましょうか」
「行こー♪」
そう言って、人混みの中に行ったのだが、やはり進むのが遅いし、人との間隔も狭く、中々苦しいな‥‥。
数分間、人混みの中を歩いていると由南ちゃんがこの人混みが我慢できなかったのか、ふらふらになりながら、言った。
「ちょっと飲み物買うわ。 このままじゃ、きつい‥‥」
由南ちゃんは、近くにあった、飲み物の缶を氷水に入れて売っている屋台のところで人の流れから出た。
「じゃあ、僕も」
「あ、私も買うっす~」
「蕾ちゃんも行くの? じゃあお姉さんも行こうかな~」
そういって三人も人の流れから出ていく。
じゃあ、私も‥‥‥‥って、凄い、人に押されて、流されてるー!
「ちょ! 皆───!」
完全に人混みからでるタイミングを失ってしまった。
どんどん、離れていく飲み物の屋台。
このままじゃ、はぐれちゃう!
この人混みだし、一度はぐれたら、合流するのが大変なのは目に見えている。
戻らなきゃという、意思に反して遠ざかっていく‥‥。
そして、ついに皆の姿が見えなくなってしまった。
あ、もう戻れない。
そう思った時、誰かが私の手を掴んだ。
掴んだ人を見ると、そこにいたのは信くんだった。
「やっと追い付いたよ。 奈留さん一人で凄く流されていくから‥‥奈留さん? 大丈夫?」
「‥‥‥‥あ、うん。 大丈夫‥‥!」
まさか、来てくれるとは思っていなかったし、しかも手を握られているということで、私は我を忘れそうになるほど、心が高鳴った。




