265 話題の大切さ
早速、お祭りの屋台が並ぶ通りを歩いてみる。
一番人が多くなるのは暗くなってからなのだが、まだ暗くはなっていないにもかかわらず、もう通りは人でいっぱいだった。
まぁ、人が多かったおかげで、浴衣を着ている人も多くいて、私達だけ浴衣で目立つということがなくて良かったけどね。
でも、先程から通りすぎる人がチラッとこちらを向いてきたりして、ドキッとする。
まぁ、祈実さんとか美人だし、見てしまうのはわかるけど。
‥‥浴衣で目立つということはなかったが、違うことで目立っているのかもしれない。
「いや~、人が多くて見て回るのも大変だね!」
「祈実さんは楽しそうですね」
「初めてだし、当然だよ♪ 絶対全部制覇してやる!」
いやいや、祈実さん? 制覇って、別にそういう食べ物フェスみたいなのではないですからね? 普通の屋台のお祭りですよ?
「きさねぇ、ほどほどにしてね。 流石に全部は食べられないでしょ?」
「そういう時は信くんにお願いするよ!」
「それじゃあ、僕がもたないから‥‥」
なんとか、信くんが説得して、食べたいものだけということになったが、祈実さんはちょっと不満そうだ。
そして、私の隣にも一人、不満そう‥‥というか、絶望の顔をしている人が。
「はぁ、人が多い‥‥」
由南ちゃんである。 私も人混みは苦手だけど、由南ちゃんはそれ以上のようで、大変そうだ。
教室も人が多いが、それはクラスメイトで知っている顔だから大丈夫なんだそうだが‥‥。
何でも声がざわざわしているのとか、間隔が少ないのが耐えられないらしい。
でも、毎年お祭りに誘うと来てくれるので、私としては由南ちゃんの優しさが感じられる良いイベントである。
「疲れた? 休む?」
「いいえ、私は今日は一度たりとも休んだりしないわ! 心配だもの」
おぉ、いつもはこういう時、帰りたいという由南ちゃんがそんなことを言うなんて‥‥。
‥‥‥‥これってやっぱり私が頼りないから、かな?
よし! 私が成長しているところを由南ちゃんに見せなければ!
でも、どうすれば‥‥とりあえず信くんと普通に話すところから。
「信くんは何かやりたいこととかある?」
お、こういうイベントごとの時って結構するなり話せるものなんだな。
うん、話題があるっていいね!
「あー、うん。 射的やってみたいかな?」
「良いね! 射的。 面白そうだし」
面白そうだけど、人生で一度もやったことないんだよね、私。
信くんもやりたいのなら、早速やってみたいな。
「奈留ちゃんも信くんも射的するの? 私もやりたい!」
「射的っすか~。 ここは強さや角度を計算して───」
なんだか、蕾ちゃんが全部取れそうな雰囲気を醸し出しているが、お店の人が可哀想だから程々にね?




