240 認識が変わった時
「そういえば、あったね。 そんなことも」
詩唖先生、つまりは前世の広葉なのだが、広葉に会えないかと言われて、現在、広葉の家にいる。
昔のことについて聞きたいことがあったらしい。
「聞いた後で悪いが、聞いても良かったのか?」
「う~ん、大丈夫だよ。 私もあまりちゃんと覚えてないからね。 でも前世みたいな死ぬ恐怖みたいなのはなかったかな。 ただ、包丁が怖かっただけで」
その時は前世のような感じではなく、怖かったが、死ぬとは思わなかった。
言ってしまえばその通り魔の人に殺意のようなものがなかったからだ。
何故と言われたら、答えられないけど‥‥。
まぁ、恐怖はあったわけで、それを救ってくれた兄さんは本当に格好よかった。
本当に、兄妹じゃなくて、私が元夕闇陸じゃなければ惚れちゃうくらいにはね。
「まぁ、特に何もなかったならいいんだがな。 あ、そういえば、この世界の俺が言っていたんだが、そこから兄が変わったって」
「そうだね、優しくなったかも? あと、格好よくなった!」
そこから責任感とか色々と、今の兄さんになっていったんだよね。
「そして、お前は極度のブラコンになったと‥‥」
「違うよ! 確かに私も、そこからなんだか色んな認識が変わったってことはあるかもだけど」
そう、極度じゃない! 兄さんは好きだけど!
例えば、そこから元自分として見るんじゃなくて、兄さんとして見るようになったとか。
あとは、自分が妹になんだ‥‥とか。
いや、ずっと妹だったんだけど、まだどこかで自分は夕闇陸なんだと思っていた。
その認識がその時変わったんだ。
「だから、俺といるときも、私、って言ってるだな」
「あーそうかもね。 自分でも意識した覚えはないんだけど、俺って言わなくなったな‥‥」
「まぁ、私、でも違和感はないけどな」
きっかけっていえば、きっかけなのかもね。
兄さんと同じように、今の私という人格を作ったきっかけ。
「そういえば、その頃に、お兄ちゃんって呼び方から兄さんにしたんだよね。 なんだか自分には合ってないような気がして。 でも長年呼び続けたせいで、まだ、たまに出ちゃうんだけどね」
ビックリしたときとか特にね。
でも、兄さん、昔の呼び方を呼ぶと喜ぶんだよね。
懐かしい! って言って。
「まぁ、危ない出来事があっても、特に何事もないなら良かったよ。 通り魔は腹立たしいがな」
「でも、あの通り魔は‥‥‥‥」
やっぱり、変だった‥‥ような気がする。
殺すつもりなら、通りすがりで包丁を刺しているはずだしね‥‥いや、そういう人の考えは私にはわからないし、考えるのは止そう。
「どうかしたか?」
「ううん、なんでもないよ」




